「売店のスポニチをすべて買い占めました」

小林は初めて会った時から、亡くなった後の現在でも高倉健をリスペクトしている。

「普通のスターさんはひとつの波で終わるものでしょう。一つの時代は作るけれど、次の時代には終わってしまう存在ですよ。しかし、健さんは大きな波を3つも持っている。デビューした頃は青春スターで、その次はやくざもので、その後が『八甲田山』と『幸福の黄色いハンカチ』……。ずっと主役を張っていたのはあの方くらいです。それにしても『八甲田山』。あの時の顔は今もまぶたに焼き付いている。僕は『八甲田山』の時の顔が好きです。歯をくいしばってるような、なんとも言いようのない、素敵な顔でした。結果的には大ヒット映画になったのですが、上映前は『まるで教育映画みたいだ』と不評だったんです。なのに健さんは3年もあの映画だけに絞ってやっていた」

小林稔侍は「自分が発掘されたのは『冬の華』と『夜叉』」と言っている。

「ええ、健さん主演の『冬の華』に出させていただきました。僕自身はそれまでと違う演技をしたわけじゃない。しかし、生まれて初めてマスコミに褒められた。家でスポニチに目を通していたら『冬の華では小林稔侍が抜群の演技』と書いてあったのです。あわてて起き上がって、もう一回ちゃんと読んで、それから駅まで走って、売店にあったスポニチを全部買いました。

「それまでは女優さんのお尻を噛んだり」

あの時はセリフがひとこともない元やくざの板前の役だった。演技を褒められて、お恥ずかしい話ですが、僕は初めて気がついたことがありました。

『自分にはこういう役がいちばん似合うんだ』。それまでは鬼の役で頭に角を生やして地獄の釜をかき回したり、女性を乱暴する役で女優さんのお尻を噛んだりとか……。そんな役ばかりだったから、自分の持ち味を出せる役がどういうものかわからなかった。『冬の華』でやっと自分の持ち味に気がついたんです。なるべくしゃべらずに芝居をする役です。

『夜叉』の時は健さんに殴られるシーンでした。健さんは『稔侍がほんとにいい芝居したから、体がかーって熱くなって、台本にはなかったけれど、思わずポケットから白いハンカチ出して、唇の血を拭けって言った』。

どちらも脇役の演技です。脇役の演技って、僕の場合は簡単なんです。

脇役の時は主役を好きになる。好きになって芝居をすれば、自然といい芝居になる」