台風で自宅の瓦が飛んで通行人がケガをしたとしても、基本的には家主に責任はない。突風が吹いたり竜巻が起こったりなど、不可抗力による損害は一般に責任は問われない。

簡単に言えば、1軒だけでなく、どこの家でも似たような被害が出るような災害であれば、個々の責任はないということ。例えば、東日本大震災のような大規模な地震や津波では、仮に何かが飛んできて当たったり、流されてきたものでケガをしたとしても、責任の問いようがないわけである。

逆に言えば、台風の日にどこかから瓦が飛んできてケガをしたとしても、治療費は自分自身で払うしかない。それでは、ほかの家はなんでもないのに、その家の瓦だけがほとんど飛んでしまっているような場合はどうか。

よくあるのは、商店の看板などが飛んできて、ケガをしたというケースだ。例えば、商店街でほかの店の看板は一切飛んでないのに、その特定の店の看板だけが飛んできてケガをした。そもそも本来は釘10本は必要な大きさの看板なのに、たった3本で取り付けられていた、あるいは古くてもう錆び付いている看板がそのまま放置されていた、などなど。

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天災に罪なし! ただしメンテナンスを怠ると…

私が「行列のできる法律相談所」に出演したのも、実は台風の日にテレビ局の古い看板が飛んできて「訴えてやる!」と怒鳴り込みにいったのがきっかけだった……というのは冗談だが、このようにメンテナンスやそもそもの設置に問題のある場合には、民法717条の「土地工作物の占有者・所有者の責任」の第1項で、設置または保存に瑕疵があるとされ、所有者に損害賠償を請求できる。

これは、個人、法人はもちろん公共施設でも同様で、信号や交通標識などでケガをした場合には、管轄の公共団体、東京都なら東京都、国なら国が相手になる。

それでは仮に、瓦は最近葺きなおしたばかりのため家主のメンテナンスに問題はなく、瓦業者の手抜き工事が原因と思われる場合には誰を訴えるのか。

答えは、やはり家主である。事故が起きたときに賠償の任を負うのは、いかなる場合にも第一義的には家主すなわち所有者である。ただし、家主は自分の損害賠償の責任を負ったうえで、さらに本来の原因をつくった瓦業者を訴える、つまり求償することができる(民法717条第3項)。