チャレンジ精神そのものを伝統にする
それでも彼は限界突破への情熱を失いませんでした。地上から遠く離れた地でチャンと名乗る長老のカモメと出会ったジョナサンは、彼の指導を受けて特訓を重ね、時間と空間を超えて瞬間移動さえ成し遂げる「完全なカモメ」の域に達します。
すると彼の中に、これまでにない感情が芽生えます。それはかつての自分と同じように限界を突破したいと考えるカモメに、自分が学んだことを教えたいとの思いでした。
地上へ戻って若いカモメたちに指導を始めたジョナサンは、生徒であるフレッチャーにこう語りかけます。
孤高の存在として挑戦を始めた者が、みずからの経験をもとに次世代の若者を教え導き、「自分の限界を突破することは可能である」という真実を粘り強く伝えていく。
ジョナサンは挑戦を自分一人のもので終わらせず、チャレンジ精神そのものを伝統としてカモメ社会に根付かせることを目指したのでしょう。
海を渡り山を築き旋風を巻き起こした「野球界のジョナサン」
同様のケースは人間社会でもしばしば見られます。私が思い出すのは、野茂英雄がメジャーリーグに挑戦したときのことです。
当時は世間もマスコミも批判一色で、「日本球界を出ていくなんて恩知らずだ」「メジャーで通用するはずがない」などと凄まじいバッシングを浴びました。それでも野茂は自分の意志を貫いて米国へ渡り、トルネード投法で三振の山を築いて“NOMO旋風”を巻き起こしました。
この成功により、日本からメジャーへ挑戦する選手が続々と現れました。野茂が投手として切り開いた道を、次はイチローが野手として切り開き、今は大谷翔平が二刀流として切り開いています。
孤独な挑戦を強いられた最初の一人が、逆風に立ち向かって自分の限界を突破し、その精神が後進へと受け継がれていく。まさに野茂は「野球界のジョナサン」と呼ぶべき存在です。

