若者を中心にMBTIと呼ばれる性格診断が流行っている。しかし、心理学の分野では「ビッグファイブ」と呼ばれる検査のほうが信頼性が高く、研究者たちに好んで使われているという。アメリカの有名大学で心理学を教えるブライアン・R・リトルさんの著書『ハーバードの心理学講義』(大和書房)より一部を紹介する――。(第1回/全2回)

4つのアルファベットで通じるMBTI

その日、私はアリゾナ州ソノマ砂漠にある施設で、直前に控えたハイテク企業幹部向けのプレゼンテーションの準備をしていました。すると、快活そうな長身の女性が近づいてきました。

彼女は、このプレゼンの企画メンバーであると自己紹介した後、私に「映像音響装置を変なふうにいじらないように」と釘を刺しました。彼女が着ていたTシャツには、真っ赤な太い字で「ESFJ」とプリントされていました。

この40年くらいのあいだに、ある程度の規模のアメリカ企業で働いたことがある人なら、このアルファベットがMBTI(マイヤーズ・ブリッグス性格指標)の「外向型(Extraverted)、感覚型(Sensing)、感情型(Feeling)、判断型(Judging)」の略語だということを知っているはずです。

MBTIテストは、20世紀の偉大な心理学者カール・グスタフ・ユングの理論に基づいて、キャサリン・クック・ブリッグスとイザベル・ブリッグス・マイヤーズという実の母娘でもある研究者が開発した、パーソナリティを理解するためのテストです。

MBTI
写真=iStock.com/Ddyedi
※写真はイメージです

年間250万人が93項目の質問に回答

現行の標準的なMBTIでは、93項目の質問に答えることで、四つの対立する指標である「外向―内向」「感覚―直観」「思考―感情」「判断―知覚」のいずれかを組み合わせた16のタイプ(アルファベット四つで表現)で、個人のパーソナリティの傾向を表します。

アメリカでとても人気が高く、毎年250万人以上が検査を受けているこのテストは、有料テストや研修プログラムも豊富で、多数の書籍やDVDが販売されています。

16タイプを表す四つのアルファベットの組み合わせがプリントされたTシャツもあちこちで見かけます。

なぜ、MBTIはこれほどまでに人気があるのでしょう?(そして、私はなぜ、彼女のTシャツを見たときに、心の中で「やれやれ」とつぶやいたのでしょう?)

おそらく、それはMBTIの信頼性や妥当性が高いからではありません。

まず、信頼性の面では、四つのアルファベットの組み合わせから成る16種類のタイプが、毎回同じものになるとは限らないことがわかっています(つまり、あの女性も再度検査したら、別のTシャツを買わなくてはならなくなります)。また、他のパーソナリティ検査と違って、大規模な研究基盤があるわけでもありません。

では、なぜMBTIはこれほどまでに人気があるのでしょうか? 私は、五つの理由があると考えています。