マイクロ法人で社会保険料のコスパを上げる

これはたしかに理不尽だが、一人二役のマイクロ法人では、自己負担だけでなく会社負担の保険料も支払わなくてはならないから、扶養家族の人数にもよるが、「国民年金は厚生年金より有利で、国民健康保険の負担額は(労使合計では)社会保険と同じ」になる。

さらに、かつては国民健康保険料の上限は60万円程度で、いったん上限に達すればそれ以上保険料は増えないから、個人の所得を大きくして法人を赤字にすることが「王道」とされていたのだ。

ところがその後、厚生労働省はできるだけ多くの労働者を社会保険に加入させるという方針を徹底するようになり、年金事務所は従業員10人以上の法人を重点調査すると同時に、マイクロ法人にも社会保険の加入義務があることを通知しはじめた。

それに加えて国民健康保険の保険料の上限が109万円(介護分を含む)に引き上げられ、その一方で法人税の税率が引き下げられたことで、「個人の所得を小さくして社会保険に加入し、法人で納税する」というまったく逆のやり方のほうがコスパ(費用対効果)がよくなったのだ(それに法律も遵守できる)。

社会保険料は収入(標準報酬月額)によって決まり、会社負担分と自己負担分を合わせて収入のおよそ30パーセントだ。社会保険料(労使合計)は役員報酬600万円で180万円だが、300万円なら90万円と半額になる(最低額は年収75万6000円未満にしたときの年額約27万4000円)。

役員報酬を下げれば社会保険料は安くなるが、(扶養家族の保険を含む)健康保険のメリットは変わらない。

現金の山に旗を立てる男
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「奇妙な世界」を賢く歩くための地図

このようにして、親本のアドバイスは16年で「あべこべ」になってしまった。私はずっとこのことを気にしていたが、親本の担当編集者がプレジデント社に移籍し、声をかけてくださったことで、PART4「磯野家の節税 マイクロ法人と税金」の部分を全面的に書き換えて新版にすることにした。

ただし、「法人とはなにか?」という話や税・社会保障の仕組み、超低利融資が可能になる理由など、それ以外の部分はできるだけ親本の記述を活かすことにした。このような文章はいまの自分には書けないということもあるし、日本社会の制度の歪みがほとんど変わっていないということでもある(数字は適宜、最新のものに置き換えた)。

また親本では、コラムとして会社の設立方法、法人税の申告、公的融資制度の利用方法などを具体的に記述したが、制度の細則は頻繁に変更されるし、いまではネット上に懇切丁寧な解説がたくさんあるので、すべて削ることにした(そのかわり、「副業で節税できるか?」と「補助金を受け取る」のコラムを加えた)。

2024年の衆議院議員選挙をきっかけに、「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」が注目されることになった。だがほとんどのひとは、それがなんなのかうまく理解できないだろう。それほど日本の税・社会保障制度は複雑怪奇なのだ。

本書を、そんな奇妙な世界を賢く歩くための地図として使ってもらえればうれしい。