「親とか、大人の顔色を見ていた」
4月19日、文科省が発表した「校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方」によれば、毎時3.8マイクロシーベルト以下なら、校庭など屋外での活動が可能とされた。後に設定された国の除染ガイドラインで、除染が必要とされる基準が毎時0.23マイクロシーベルト以上であることを鑑みれば、ありえないほど高い数値だったことがわかる。
「当時は、何もわかりませんでした。まず、『マイクロシーベルトとは?』という次元の話ですから。3.8が高いのか、低いのかさえ、わからない。当時は、校庭で4以上あったと思います。今、考えると恐ろしいです」
私自身、事故から1カ月後に、事故後初めて福島駅に立ったときの違和感が忘れられない。故郷の空気に今まで感じたことのない金属臭と、喉に刺さるようなざらつきを確かに感じた。わかなさんがうなずく。
「あの空気の鉄っぽい味って、何なんでしょう? あれは、あそこにいた人でないとわからないと思う」
実際に違和感を感じながら、子ども達はどんな思いでいたのだろう。
「子ども達の基準からすると、『本当に、大丈夫なの?』みたいな雰囲気。でも、その不安を口に出すことはしないし、言語化してみるということもなかった」
わかなさんも、もちろん、不安を口にすることはなかった。どうして率直な思いを話せなかったのか。
「私の場合は、やっぱり親です。親とか、大人の顔色を見ていた。言ったらまずいだろうなって気がしていたから、不安だとか、言わなかった感じです。福島駅前でマスクもしないで、平気で人が歩いていて、みんな、もう何事もなかったかのようでした。学校でマスクをしていると、教員から外すよう注意されましたし、残酷でした」