コロナ禍のダメージからの回復に陰りが見えてきた

そうしたコロナによるダメージは、2022年、2023年と全世界的に回復傾向を示していた。しかし、2024年はそれに陰りが見えた。日本、北米、韓国それぞれの映画人口が、2023年比でマイナスとなったのだ。回復が上げ止まり、ポストコロナ時代における映画産業の新たな均衡点が見えてきている。

コロナ禍前年である2019年の観客数と比較すると、日本はマイナス5047万人・25.9%減。北米もマイナス4億1202万人・33.6%減、韓国もマイナス1億355万人・45.7%減となった(同前)。つまり、「映画館離れ」が定着した可能性が出てきたのである。

【図表3】日米韓の映画人口の推移 ※2019年を100%とした場合
筆者作成

一方、パンデミック中に加入者数を飛躍的に伸ばしたのはNetflixやAmazonプライム・ビデオなどの動画配信サービスだ。映画会社もDisney+やMax(ワーナー・ブラザース)など配信プラットフォームへのシフトに注力した。コロナ禍は、映画館離れと動画配信サービスの普及を同時に促進したのである。

配信なら無理に2時間にまとめあげる必要がない

こうした動画配信サービスは、映画館が従来のテレビに対して有していたふたつの優位性を相対化した。

ひとつは画質の優位性だ。4K解像度や有機ELディスプレイ、大画面テレビの普及などにより、家庭でも高画質の映画鑑賞が可能になった。これはかつてのブラウン管テレビの時代にはなかった技術的変化だ。

もうひとつは製作費の優位性だ。動画配信サービスは、グローバルに定額制のビジネスを展開することで、多額の予算をかけた作品製作を可能とした。たとえばNetflixの『イカゲーム』やDisney+の『ムービング』のような韓国ドラマのように、ハリウッドと遜色ない派手なオリジナル作品の製作も可能になったのである。

さらに動画配信は映像コンテンツの自由度を高めた。従来の映画館では、一定の上映時間(90〜150分程度)の制約がある。しかし配信サービスの普及により、長尺や30分程度の短編など、多様な形式が可能となった。かつての『裏切りのサーカス』や『レディ・ジョーカー』のように、登場人物が多い複雑な小説を無理に2時間程度に圧縮して映画館で公開する必要はなくなったのである。

対して、映画館はそもそも不自由なメディアだ。観客は物理的に映画館に出向く必要があり、2000円程度の入場料を払い、上映開始時間や座席の制約もある。こうしたなかで映画館の役割が相対的に失われていく傾向は避けられない。