組織カルチャーとして根付く「紙1枚」

まずは、組織レベルの話をしたいと思います。

トヨタでは、仕事の資料をA4やA3サイズの「紙1枚」にまとめる企業文化があります。このような紙面上の制約があることによって、資料作成者はあれもこれもと大量の要素を盛り込むことができません。

すると、次のような思考回路が生まれてきます。

例えば原因が5つあるなら、さらにその根本原因を突き詰め、できるだけ1つ(多くても3つ以内)に絞り込んで資料に記載する必要があります。対策案についても、「あれもやろう、これもやろう」ではなく、「優先順位をつけてここだけやります」と言い切れるまで熟慮しなければなりません。そうしないと到底「紙1枚」に収めることなどできないし、できないからこそ、日常的に自身の担当業務について深く考え抜く習慣を自然と身につけることにつながっていく――。

これが、トヨタの「紙1枚」文化の本質です。

バインダーに挟んだ書類を示しながら説明する人の手元
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

トヨタの上司は「赤ペン先生」だった

考えに考え抜いて資料に記載する量や要素を減らしていけば、なんとか「紙1枚」に収めること自体は可能になります。

しかし、端的な表現に圧縮してしまう以上、意図とは異なる理解をされてしまうリスクも当然発生します。そこで必要になるのが、「一つひとつの言葉の選択が、資料を通じて報告・連絡・相談したい仕事の状況を正確に反映しているかどうか」について吟味する能力です。

まさに近年のビジネス書が謳う「言語化」能力、「解像度を上げる」力そのものであり、この能力を高めてくれたのが「上司からの赤ペン添削」というマンツーマンレベルの個人指導でした。

私は新人の頃、資料を作っては上司に見せ、上司は資料を真っ赤に添削して返すというラリーを1年以上にわたりやってもらっていました。時には深夜残業や休日出勤も交えての濃密な育成機会であり、トヨタにはこのような取り組みについて「教え、教えられる文化」といった言葉も存在します。

このようなトレーニング機会に恵まれたからこそ「解像度を上げる」力について身につけることができたわけです。