難関大学の学生に向けられる「視線」とは
さらに深刻なのは、「世間とのミスマッチ」である。
先に見たように、熊野寮は、全国の国立大学の学生寮としては、すくなくとも条件面では特殊ではない。ただ、そこに「警察による強制捜査」が入るのは、普通ではない。
がんばって受験勉強に取り組み、将来を嘱望されるほどの頭脳を持った人たちが、学問ではなく、「なにやってもええ」場所で、自由に振る舞う姿を、もう、世間は、許容できなくなっているのではないか。
「京都大学のような難関校に入るためには、小学生のころから塾に通い、中学受験をして、早くから大学受験対策をしなければならない」。これが、世間のイメージである。塾や家庭教師などへの「課金ゲーム」を勝ち抜いた、裕福な家の恵まれた人たち=難関大の学生、だと思われているのではないか。
たとえば、東大生の親の年収は、どれぐらいなのだろう。
2021年度の「学生生活実態調査」によれば、世帯年収が750万円に満たないのは22.0%である。「分からない」と答えた割合が24.0%であるとはいえ、東大生の親の少なくとも半分以上(54.1%)が750万円以上の年収を得ている。
「東大のイメージ」が京大にも横滑りしている
しかも、950万円を超えるのは40.9%である。厚生労働省による「国民生活基礎調査」によると、2021年に「児童のいる世帯」の平均所得金額は785万円だから、東大生の親の所得は高い。
また、朝日新聞EduAのまとめでは、東大合格者数のトップ10のうち、東京都立日比谷高校(8位)を除いた9校が中高一貫校であり、さらにそのうち7校は首都圏にある。
東大は、首都圏の高額所得者の子女が通う学校=「裕福な家の恵まれた人たち」というイメージを強めている。
他方で、東京大学は、設備費や人件費などを賄うために、2025年度以降に授業料を約10万7000円値上げする方針を明らかにし、それに対して、学生が反対集会を開いた。
現在の授業料=年53万5800円をどう捉えるのか。
東大生に首都圏出身者が多い現状に鑑みると、自宅から通う学生が高く、しかも、その世帯収入は高い。となれば、授業料を値上げしたとしても払えるのでは、と、世間は見るのではないか。
授業料値上げに反対する学内の声とは裏腹に、世間からは、逆に、「裕福な家の恵まれた人たち」がより多く負担するのは当然、と思われてもやむを得ない。
こうしたイメージが、双璧をなす京大にも横滑りしているのではないか。