本当の少子化対策は「所得格差縮小」
私のゼミの女子学生に「相手の年収がいくらだったら結婚しますか?」と聞いたら、全員が500万円以上と答えた。非正社員は、そもそも結婚相手の対象になっていないのだ。
このことを前提にすると、真の少子化対策は簡単に導き出せる。格差を縮小することだ。
具体的な対策としては、最低賃金を大幅に引き上げるとか、同一労働同一賃金を厳格に適用する、あるいは逆進性の強い(低所得者ほど負担が大きい)消費税を減税する、さらには国民全員に毎月一定金額を給付するベーシックインカムを給付するなど、所得格差を縮める手段は無数にある。
たとえば、韓国の最低賃金(時給)は、2013年には4860ウォンだった。ただ、その後、韓国政府は猛烈な勢いで最低賃金を引き上げ、2023年の最低賃金は9620ウォンとなっている。10年間でほぼ2倍、年平均の引き上げ率は7%に達している。
一方、日本の最低賃金は2013年の全国平均が764円、2023年は1004円で、10年間で31%増、年平均の引き上げ率は2.8%にとどまっている。
韓国で実施できた最低賃金の引き上げが、日本ではできない理由はどこにもないのだ。
しかし、実際に官僚たちが作った異次元の少子化対策の具体的な内容に、格差縮小の施策は一切ない。そのすべてが「子育て支援」だったのだ。
一番大きな拡充は「所得制限の撤廃」
2023年6月13日、こども未来戦略会議が、「こども未来戦略方針」を発表し、異次元の少子化対策の骨格が明らかになった。報告書は、今後3年間に集中的に取り組む「こども・子育て支援加速化プラン」として4本柱を掲げた。
②全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充
③共働き・共育ての推進
④こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革
そして、経済的支援の冒頭に掲げたのが児童手当の拡充だ。報告書は次のように書いている。
児童手当については、次代を担う全てのこどもの育ちを支える基礎的な経済支援としての位置付けを明確化する。このため、所得制限を撤廃し、全員を本則給付とするとともに、支給期間について高校生年代まで延長する。
児童手当の多子加算については、こども3人以上の世帯数の割合が特に減少していることや、こども3人以上の世帯はより経済的支援の必要性が高いと考えられること等を踏まえ、第3子以降3万円とする。
この方針に基づいて児童手当が拡充されることになった。
これまでの児童手当は、2歳までが月額1万5000円、3歳から中学生までが月額1万円だったが、2024年10月からは、給付金額自体は変わらないものの、支給期間が高校生までに延長された。また、第三子以降に関しては、これまでの1万5000円から倍増の3万円となった。
そして、一番大きな拡充は所得制限の撤廃だ。所得制限額は家族構成によって異なっていたのだが、共働き世帯で子どもが1人の場合は、年収833万3000円で減額になり、年収1071万円で支給停止になっていた。それをいくら所得が高くても、児童手当が給付されるように変えたのだ。