うつ病がきっかけで体も命も失う危険

正直なところ、医師である私自身が最もなりたくないと思う病気がうつ病です。

うつ病は体のだるさや食欲不振、なにかを食べても味を感じないといった症状が続きます。さらには、人に迷惑ばかりかけているという罪悪感に苛まれ、孤独になります。

しっかり治すか認知症にでもならない限り、いつまでも辛さを抱えながら生きていかなければならないのです。闘病中に喪失体験が重なり、最悪の場合、自ら命を絶ってしまうこともあります。

うつ病の症状は心だけでなく、体にも悪影響をもたらします。シニアは若い頃と比べて体内の水分量が減りますから、食欲不振が続けば容易に脱水症状を起こします。

脱水によって血液がドロドロになると脳梗塞や心筋梗塞のリスクとなりますし、脱水は免疫機能も低下させるため、肺炎などにかかりやすくなります。

うつ病がきっかけで体力が低下し、死を早めてしまうことも少なくないのです。

悩むシニアのイラスト
イラスト=まつむらあきひろ

60代以降は意識的にセロトニンの分泌を増やす

幸いうつ病は認知症と異なり、現代医学で治療法があります。若い人は心理性の要因が絡み、薬があまり効かない傾向が高いといわれるのですが、老人性のうつはセロトニン不足が主な要因であることが多いため、薬が効きやすいのです。

少しでも自分の異変を感じたら、なるべく早く医師に相談することをおすすめします。

私がシニアのみなさんを診察しているなかでかなり多いのが、「セロトニン不足症候群」といえる患者さんたちです。

うつ病と診断するほどではないのですが、心と体の不調が現れており、四六時中不安を感じ、体のあちこちが痛い、調子が悪いと不調を訴えてこられるのです。刺激に敏感になり、体の痛みを感じやすくなるのもセロトニン不足の影響です。

セロトニンが正常に分泌されていると、意欲的になるとともに不安が弱まり、前向きでいられます。

反対にセロトニンの分泌が減少すると、ノルアドレナリンやドーパミンが暴走し、気分が落ち込み、意欲が低下してしまいます。また痛みに敏感になり、腰痛や頭痛といった症状があらわれます。

ひどくなるとうつ病の他、パニック障害といった精神症状も引き起こします。セロトニンは心の安定に欠かせない存在です。

このセロトニン不足症候群の人たちに脳内のセロトニンを増やすうつ病の薬を処方すると、不調が治るケースがよくあります。最近では、不調の原因がセロトニン不足と考えられる場合は、整形外科などの医師も腰痛の患者にうつ病の薬を処方することもあるようです。

年をとると通院する機会が増え、薬も増える……。「これ以上病院にはかかりたくない」という人も多いでしょう。

うつ病にならず、日々を元気に過ごすために心がけていただきたいのが、セロトニンを補う生活をすることです。60代以降は意識的にセロトニンの分泌を増やすように心がけましょう。