65歳を迎えると「幸せホルモン」が減っていく
また、親の介護をはじめる人もいるでしょう。老いた親を子が支える側に立ち、親子の関係性が変化することも、喪失感を与える大きな環境変化です。
人がうつ病にかかる割合は、65歳以下では3%ほどといわれますが、65歳を迎えると5%に上昇します。この変化には医学的な根拠があり、心を安定させてくれる「セロトニン」という神経伝達物質の減少が原因とされています。
年を重ねるごとに分泌量が減少するセロトニンは、別名「幸せホルモン」といわれ、精神を安定させる役割を担っています。
他の神経伝達物質のなかにはストレスに反応して怒りや不安、恐怖などの感情を引き起こす「ノルアドレナリン」や、向上心や快楽といった感情を引き起こす「ドーパミン」などがありますが、これらの神経伝達物質の分泌をコントロールしてくれているのがセロトニンです。
このように、環境や体の変化が大きい60代は心が不安定になりやすい年代です。どんなに見た目が若く元気な人も、「60代は変化があって当たり前」と認識しておけば、これまでにない変化にも冷静に対応できるでしょう。
「まだまだ自分は若い」と高をくくっていると、いざ心の症状が現れるとパニックになり、対応が遅れる可能性もありますので注意しましょう。
認知症よりも怖いのはうつ病
シニアはうつ病になるリスクが上がっていきますが、老人性のうつ病の存在は社会ではさほど問題視されていません。それは、シニアのうつ病がなかなか気づかれにくいことにも一つの原因があるように感じています。
シニアのやる気が低下しても、周囲が「意欲が衰えたのは年をとったせいだろう」と考えて、深刻に捉えないケースも多いようです。また、物忘れや日常の行動が億劫になっている様子を認知症と誤診され、誰にも気づかれないままうつ病が進行してしまうケースもあります。
実際に、私が診療している患者さんの6~7割は認知症、残りの3割程度がうつ病です。認知症は「多幸症」といわれることもあるように、中期以降になると本人自身が感じる辛さは和らいでいきます。対して、うつ病は悲観的になる、本人にとってつらい病気です。