“生徒たちに考え、試行錯誤してもらう”
「先生方の学校に対する思いからくる意見はよくわかりました。僕はあえて哲学的な話をしたいと思います。
人間の持っている時間って有限ですよね。誰もが自分の残りの時間が少なくなっていく中で生きています。そんななか次にあれをやれ、これをやれと時間を制限され、決められると、それを破って解放されたい、自由になりたいと思います。
だけど、いざ解放され、自由になっても、人には時間通りに生きていける本能があります。朝、日が昇ったら起きて、朝ご飯を食べて、生活を組み立てていく。
厳しい校則、時代遅れのブラック校則も同じです。自由がない、狭苦しいと思うから、反発し、ここから出ていこうとする。でも、自由に自分たちでルールをつくれるとなったら、子どもたちは自分で自由について考え、柳川高校にちょうどいいルールを組み立ててくれます。僕らはそれを信じて、見守りましょう」
「皆さん、校長室に飾ってあるゴルバチョフさんとの写真を知っていると思います。僕はゴルバチョフさんがペレストロイカをやったのと同じ気持ちで、柳川高校の校則を子どもたちに託そうとしています。ゴルバチョフさんはペレストロイカを実行したら、痛みを伴う変化が生じるとわかっていて踏み出したと言っていました。
僕も同じことを先生方に言います。僕ら昭和に生きてきた人間は校則を子どもたちに託すなんて経験をしたことがありません。実行したら、どうなるかわからない。はっきり言ってすごい髪型にしてくる子が出てくるかもしれない。とんでもない格好で登校する子も現われるかもしれない。
でも、先生。ガタついてもいいじゃないですか。ガタついても1年、1年と進むうち帳尻が合ってきて、それが柳川高校の校風となっていく。だから、子どもたちが考え、試行錯誤しながらつくっていく校則が必要です。一歩目を踏み出しましょう」
大人は「子供たちを心底信じていこう」
教員全員が納得するまで意見を言い合って、議論を深めていったとしても、スタート地点に「校則は変えたくない」という感情があります。この場合、ソフトランディングまでには途方もない時間がかかります。
だから、校則を生徒に託すことについてはハードランディングで突破しました。
その後は生徒会を中心に生徒たちが話し合って、少しずつ校則を変えていっています。例えば、髪型に関するルール。以前は「染めてはいけない」「ツーブロックはダメ」など、細かな取り決めがありました。
でも、今は自由です。それで学校が荒れたかと言えば、そんなことはまったくありません。金髪にしたい子は金髪に、黒髪がいい子は黒髪に、部活の後、水道でざーっと頭を流したい子は短髪ですし、ダンスで髪の動きを見せたい子は長髪です。
それぞれにそうする理由があって、それを校則が邪魔しないだけ。やってみれば、当たり前のことです。
今はメイクについて生徒たちが話し合っています。どういうふうに決まっていくのか。僕たち教員は、生徒会に任せています。僕が子どもたちのためにやれたことは、大人側に「子どもたちを心底信じていこうよ」と伝えることだけでした。