さらにスターマー政権は、富裕層への増税として、資産売却益に課される金融所得課税が20%から24%に引き上げることを掲げている。富裕層による金融取引は、好むと好まざるを問わず英国経済を動かす活力だが、彼らの行動を阻むような政策を取れば、英国に流入する投資マネーが減少するばかりか、富裕層が英国から退出する恐れも出てくる。
税制に関する議論は政治的な対立を生みやすいため慎重に行われる必要があるが、原則的には、特定の対象に偏ることなく、広く浅い課税が目指されるべきである。そうであるからこそ、累進課税の最高税率は段階的に引き下げられてきた。その先駆者ともいえる英国で真逆の発想による増税が試みられている点には、興味深いものがある。
日本は、イギリスのバラマキ財政を笑えない
スターマー政権の予算案には評価できる点もある。例えば、長らく保守党政権の下で手つかずであった老朽インフラの再整備に向けた道筋を示したことは評価されよう。そうはいっても、労働党が拡張型の予算に邁進すれば、英国は再びスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)に苛まれ、国民の生活は悪化すると危惧される。
かつて労働党はトニー・ブレア元首相とゴードン・ブラウン元首相の下、約13年間にわたって安定した政権運営を行っていた。当時の労働党は、供給の刺激にも配慮した「ニューレイバー」路線を貫いていたが、今の労働党は、14年間の下野を経て、需要の刺激に拘る古典的な「オールドレイバー」路線に復帰してしまった感が否めない。
拡張が好まれるのは英国に限った話ではない。米国では年明けよりドナルド・トランプ元大統領が新大統領に返り咲くが、トランプ大統領も拡張志向が強い。しかし、本質的に高インフレが続いている中で財政を拡張し、需要を刺激すれば、かえって高インフレが長期化し、国民の生活が圧迫される。このことが、世界的に忘れ去られている。
日本でもインフレに転じて久しいにもかかわらず、デフレという言葉を用いて需要の刺激を正当化しようとする意見が根強い。デフレを不景気と誤認識している風潮もあれば、むしろ意図的に利用する声もある。潜在成長率が低い日本では2%でも相応の高インフレである。需要の刺激を続ければ、国民生活を圧迫する高インフレも長期化する。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)