常に見直し、改良改善をする
また、研究開発の人に対しては、「今の技術に意固地になっていないか? それは技術者のエゴ、独善だ」と指摘し、「一つの技術から夢をどれだけ広げられるかが大事なんだ」と技術を進化させる必要性を強調していました。
間接部門の人間に対しても、日々改良改善することを常に指摘していました。たとえば、経理の人に「なぜ昔と同じ伝票を使っているのか? どのような伝票がいいのか考えたことがあるのか、それは科学だ」と助言していたこともあります。
何も考えずにいつもと同じやり方で仕事を進め、それが当たり前だと思っていることでも、常に見直し、改良改善をすることが大切だと教えていたのです。
稲盛さんは、「私たち日本人は農耕民族であったため、毎年、同じ時期に同じことをしていれば、それでうまくいくと思い込んでいるところがある。
一方、狩猟民族であった欧米の人々は、同じことをしていては獲物は捕れないことを知っていて、常に変えること、進化させることが習い性になっている。
これからは欧米の国々と厳しい競争をしなければならないので、日本人は『これでいいのか、これでいいのか』と常にクリエイティブに考える習慣が大事だ」と語っていました。その姿勢が現在の日本には間違いなく問われていると思うのです。
全く新しいことに挑戦し続けてきた
1990年初頭、日本経済が絶好調の頃、アメリカで出版され、ベストセラーになった『ネクスト・センチュリー』という本があります。
この本の著者で、ピュリッツアー賞を受賞した世界的なジャーナリスト、デイビッド・ハルバースタム氏は、当時、世界第2位の経済大国にまで成長した日本を代表する企業の一つとして京セラを取り上げました。
ハルバースタム氏は稲盛さんを取材し、その感想などを同書で十数ページにわたってまとめています。その中で、ハルバースタム氏は稲盛さんを次のように紹介しています。
「卓越することへのあくなき努力、そしてその背景にある献身的な義務感に思いを馳せるとき、わたしにはきまって稲盛和夫のことが頭に浮かんでくる。稲盛は日本で目覚ましい成功を遂げた京セラの会長である。
(中略)彼は自らの会社を技術の最先端に導いた。いったん成功を収めたことがらには二度と関心を示すことはない。『次にやりたいことは、わたしたちには決してできないと人から言われたものだ』と語る」
稲盛さんは、ハルバースタム氏がこの本で述べているように、「決してできないと人から言われたもの」、つまり全く新しいこと、不可能とも思えることに挑戦し続けてきました。
その開発手法を稲盛さんは「アスファルトの道ではなく、あえてあぜ道を歩く」とたとえています。