タクヤは人生を賭けた会見へ向かう
フリートークがカットされて、いつもより短い時間でライブは終わった。
スタッフはいつもと変わらず「お疲れさまでした」とメンバーを出迎える。リーダーも、ゴロウチャンもツヨシもシンゴも、楽屋の方に戻ってきても顔色を変えず、スタッフに「お疲れさま」とは伝えるが、今日のライブがどうだったかは何も言わない。
タクヤだけはこの日、ライブが終わりではなかった。自分の人生を賭けた会見がある。
楽屋に戻ってきたタクヤは、急いで会見用の服に着替えた。そして会見に向かうために楽屋を出た。
メンバーたちは、タクヤがこのあとどこに向かうか知っている。人生を賭けた会見に向かうことを分かっている。でも、何も言わなかった。
タクヤは楽屋を出ると、廊下を歩いた。イイジマサンとマネージャー陣、僕と最低限の人数で、ライブ会場の上にある会見会場に向かった。
真っ白な廊下を通り、エレベーターを待つ。このエレベーターに乗って上がると、そこが会見場である。
世の中に彼の結婚がどう受け止められるかはこの会見次第だ。
緊張を楽しみ、戦いを勝ち抜いてきた
エレベーターに乗ると、彼が言った。
「全身の毛穴から血が出そうだよ」
はにかんで言っていたが、本音だろう。
タクヤが僕にこんなことを言ったことがあった。知り合いのサッカー選手が初めてのワールドカップに出場して、試合直前、電話を掛けてきたらしい。
「やばいよ。めっちゃ緊張してる」
そう言った彼に対してタクヤは言った。
「今からその緊張を味わえるのって日本に11人しかいないんだぞ。だからその緊張を楽しめよ」
タクヤからその話を聞いた時に、なるほどと納得した。彼はこれまで、そうやって戦って勝ち抜いてきたのだと。
彼のこの言葉を聞いてから、僕も、とんでもなく緊張したとしても「この緊張を味わえることは人生であと何回もないのかもしれない」と思うようにしたら、緊張を楽しめるようになった。
タクヤも、この人生最高の緊張感を楽しもうとしているのかもしれない。
エレベーターが止まって、扉が開いた。
タクヤが、エレベーターを出て歩き出した。
僕はその背中を見送った。
会見が始まる。