「自分だけが“珍人種”だと思っていた」。愛も性も必要としないミレニアル世代のアセクシャル女性が、自ら選んだ「お相手の方」との家庭とは――。
性問題
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男性同性愛者と契約婚して2児を授かる

「子どもからすれば、普通のお父さんとお母さん。夕食は子ども2人と私たちで、一緒にテーブルを囲んで。だから、普通の家庭と変わらない」

小林翠さん(仮名、34歳)があえてこう語るのは、「普通の」とくくられる家庭と、翠さんと夫が築く家庭が内実を異にするからだ。翠さんはふわっと柔らかな雰囲気を持ちながら、自分の思いや気持ちを伝える言葉を正確に選ぶ、確かな芯を感じさせる女性だ。

翠さんは夫のことを終始、「夫」とも「彼」とも言わず、「お相手の方」と話した。それ以外の表現がきっと、難しいのだろう。

翠さんは戸籍上の夫との間に、恋愛も性行為もない夫婦として、一つ屋根の下に暮らしている。夫の子どもが欲しいという希望を受け、人工授精で授かった子どもは4歳と2歳。ふたりは子どもの両親として、共同で育児に当たり、一家4人の家庭を築いている。

翠さんは自身を、恋愛も性行為も必要としない「アセクシャル」だと自認する。

20代で「通常の結婚は無理だ」と判断した翠さんが選んだのが、この恋愛も性行為も伴わない、通称「友情結婚」だった。翠さんは日本で唯一、友情結婚に特化した結婚相談所「カラーズ」で婚活を行い、さまざまな条件のすり合わせの結果、男性同性愛者と契約結婚。結婚当初から同居し、子ども2人を自分の子宮で育くみ、出産した。

男女問わず誰でも同じように好き

翠さんは中学生の頃から、「ナンカ、違うな」と友人たちに違和感を抱いていた。

「友達同士で好きな人の恋バナになると、みんな、好きな異性が当たり前にいるよねというのが前提なんですが、自分の中では、『ええ~?』って。『誰でもみんな、好きな男の人がいるの?』っていう、違和感がありました」

翠さんは自分に敵対したり、嫌なことをしたりする人でなければ、男女問わず、誰でも同じように好きだった。人との関係に何の垣根も作らない、翠さんのフラットさを思う。自分に嫌なことさえしてこなければ、人はみんな好き。そこに、特別感はない。恋愛になると、「特別に好き」という気持ちが友人の話から伝わってくるが、それがちっともわからなかった。

高校時代、告白されたこともあった。

「普通に仲のいい男の子がいて、告白されたと友達に話したら、『嫌じゃなければ、付き合ってもいいんだよ』と言われ、そんなもんなんだってお付き合いもしたのですが、みんなのように相手への特別感はないし、会いたくてたまらないというのも、全然なくって」