エンジニアは「定義」を重視する
管理職が人間と対話する人だとすると、エンジニアはコンピュータと対話する人だと言えます。
人間と人間の対話は、双方向的です。話し手がすべてを言葉にしなくても、聞き手は、その場のシチュエーションや相手の感情といった明言されていない情報を推測したうえで、話し手の意図を理解しようとします。
それに対して、人間とコンピュータとの対話は、一方通行のコミュニケーションです。コンピュータは、指示されていないことは一切理解してくれません。文字通り、言われたようにしか動きません。そこで、日ごろコンピュータを相手にしているエンジニアが重視するのは、「定義」です。コンピュータに指示を出すときは、言葉の定義や全体のロジック、最初から最後まで伝え漏れがないかに細心の注意を払います。
この姿勢は、対人コミュニケーションにおいても反映される傾向があります。管理職のあなたがエンジニアに、「これやっておいて(なんとなくわかるでしょ)」と指示しても、「それはどういうことですか?」と聞き返されるでしょう。これはエンジニアが冷淡な性格だからではなく、厳格な定義を求めているから。普段人間を相手にする管理職や一般のビジネス職とは、コミュニケーションのアプローチが異なるのです。
エンジニアとコミュニケーションをするときは、暗黙の前提条件や自明に思われる文脈をできる限り正確に言語化し、一つひとつの言葉をしっかり定義付けることを意識しましょう。
わからないときは「わからない」と言おう
エンジニアと会話するなかで、技術的な内容が難しくて理解できないという場面は当然あると思います。ここでエンジニアリングの専門知識を持たない管理職が一番やってはいけないのは、知ったかぶりをすることです。
「知らない」と言うことは自分の無知を認めることですから、人をマネジメントする立場の管理職にとっては特に怖い行為だと思います。
しかし、知らないのに見栄を張って知っているふりをすると、あなたに対するエンジニアの信頼は失墜します。なぜなら、エンジニアが最も重視する「定義」の真偽が揺らいでしまうからです。「Aの現状について教えてください」と聞かれたあなたが、Aが何かよくわからないまま答えてしまうと、Aの現状は誤って定義されかねません。「Aが何かについてあなたは理解している」という間違った情報をエンジニアに与え、両者の議論の前提にズレが生じることにもつながります。
エンジニアリングについて詳しくない管理職が今日からすぐ始めることができるのは、わからないときに「わからない」と言うこと。「すみません、もうちょっとわかりやすく説明してくれますか?」と聞けばいいのです。