どこの局でもやっている「大家族」「大食い」「警察密着」との違い

この「性癖」を裏付けるような経験を私もしたことがある。

20年ほど前になるが、当時私はテレビ東京制作というテレ東の子会社に出向していた。そのころ、ある会議で知り合った他局の制作局次長からヘッドハンティングを受けた。入社後の待遇や条件まで具体的に提示されて、「社長面接を受けてほしい」と言われた。

だが、履歴書を提出したとたんにその局次長が青ざめた。「田淵さんはテレ東の社員だったんだ……」。その人は、私を制作会社の人間だと思い込んでいたのだ。結局、この話は「他局の人材は引き抜けない」ということでご破算となった。いまでは、こういった他局間の人材移籍も容易になった。

以上の例からもわかるように、テレビ局は意外と封建的なところがあって、他局の「テリトリーを侵さない」という不文律がある。それは番組においても同じだ。

ある局で「マグロ漁」が当たれば、他局もマグロ漁特番を組むように、「二匹目のドジョウ」を狙おうとするテレビ制作者は出てくる。「大家族」「大食い」「警察密着」の3ジャンルはどのチャンネルでも番組が組まれているが、決して「同じ番組」を他局に移動させて放送することはなかった。

「芸能界のパワーゲーム」という指摘も

今回のTBS系「どうなの会」は、日テレ系「どうなの課」と「同じ番組」と誰もが認めるだろう。司会の生瀬勝久氏、その傍らにいる大島美幸氏(森三中)、実験するお笑い芸人も同じ、世の中のウワサを検証するという番組コンセプトもダイエット企画も同じ。さらにはセットやテロップ、ナレーションという演出面まで同じ作りであったからだ。

ここまで同じなのは、その経緯を聞けば納得がいく。テレビのバラエティ番組を長年制作し、業界の事情に詳しい2人の制作会社経営者に取材した内容を整理すると経緯はこうだ。

「どうなの課」は日テレ系列の中京テレビが制作していたが、同局は3月末で番組が終了することを決めた。この番組を立ち上げたプロデューサーは、局上層部の決定に納得がいかず、会社を辞めてTBSに番組を持ち込んだ。この移籍の裏には、芸能界のパワーゲームが隠されている。元・中京テレビのプロデューサーの糸引きをしたのは制作会社の極東電視台だと言われているからだ。

実際に番組最後に流れるスタッフロールを見てみると、「どうなの課」のときには「制作協力」であった極東電視台は「どうなの会」では「製作」としてTBSと並んでいる。局とクレジットが同列と言うことは、著作権を保持できている、それだけ力が強い、すなわち何らかの功績があったと考えていいだろう。昨年2023年10月1日付で、極東電視台は66%の株式を取得したアミューズの連結子会社となっている。