ネガティブ思考でなければ生き残れなかった人類

また、エッティンゲンは、ダイエットに取り組む女性だけでなく、条件のよい就職先を探す学生、パートナーを探す独身者、人工関節置換術を受けた高齢者らを対象に、同様の実験を行っています。

これらの実験でも、やはりポジティブ思考でありながら、目標達成の困難さを認識している現実的な被験者が、そうでない被験者よりも熱心に、就職活動やパートナー探し、リハビリテーションに取り組み、成功する結果が出ています。

そもそも論で言うと、人間はネガティブ思考が普通です。

人の心を進化論の観点を取り入れて考える「進化心理学」という分野があります。

進化心理学では、人類の進化の長い歴史から考えると進化にはとても長い時間がかかるのに、文明の発展などはつい先ほど起こったようなものなので、人間の心も体も旧石器時代から大きく変わっていない、生物としての進化が追いついていないと考えます。

家も、便利な道具も、蛇口をひねれば水が飲める水道も、食べ物が買える店もなかった時代の人間の生活は、夜暗いだけで恐ろしく、いつどこで獣に襲われるかも分かりませんでした。

ちょっとした怪我や病気でも命を落としてしまいます。

ですから、常に警戒し、危険そうな情報にアンテナを張り巡らせることが、生存率を大きく左右するので重要だったのです。

「そんな自分だからこそ成功できる」と考える

特に、ネガティブな情報は自分にとって不利な情報ですが、そんな情報に注意を払えるほうが危険や脅威に対して準備や対処がしやすく、生存競争において有利だったわけです。

ですから、人間には本能的にそういう情報に注意が向くようにできているということ。

というわけで、自分が少々ネガティブ思考でも、気にすることはありません。

似た性格や考え方の人はたくさんいますし、見方を変えれば、ネガティブな人は危機意識が高い人。

とても高性能な生命維持のためのアンテナを備えた人なのです。

ですから、ポジティブ思考が苦手な人は、ぜひネガティブ思考を、自分の現在地ではなく、未来の目標達成のために働かせましょう。

そして、その簡単ではない未来予想図を恐れるのではなく、「そんな自分だから、エッティンゲンの実験のように成功に近づくんだ」と現実的なポジティブ思考を奮い起こしてください。

パソコンを前に頭を抱えている男性
写真=iStock.com/Bulat Silvia
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