緊迫する中東情勢がインフレ懸念を押し上げる

インフレ懸念を押し上げる変化も起きた。イスラエルとイランの間で報復攻撃が起き、中東情勢の緊迫感は一段と高まった。米国の度重なる自制の要請にもかかわらず、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランやハマスなどに対する強硬姿勢を変えていない。ネタニヤフ首相が政権を維持するためにも、強攻策をとらざるを得ないとの懸念は多い。

今後、どこまで中東情勢の緊迫感が高まるか予測は難しい。世界経済の先行き見通しは悪化し、主要投資家はリスクを取りづらくなった。中東情勢の緊迫化は世界のインフレ懸念も押し上げる。

イランがホルムズ海峡の封鎖をより強く警告すれば、ペルシャ湾の船舶航行は減少するだろう。ホルムズ海峡経由で供給される原油は、世界全体の2割を占めるといわれる。また、世界第3位の天然ガス埋蔵量を誇るカタールから、欧州やわが国などへのガス供給が減少する恐れもある。それは世界経済にとって重大なマイナス要因だ。

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経済状況は米中で明暗分かれる

米国の賃金の高止まり、人手不足および個人消費の増加傾向はしばらく続きそうだ。中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇、米国のインフレ懸念の再燃も考えられる。FRBによる追加利上げの必要性に言及する経済の専門家もいる。FRBは金融引き締めを継続し、物価安定の実現を優先する可能性は高い。

そうした状況になると、世界経済の不安定感は高まる。足元の世界経済は、米国経済、特に個人消費に支えられてきた。一方、中国経済はかなり厳しい。不動産市況の悪化に歯止めがかからない。個人消費は鈍化し、東アジア新興国の対中輸出の回復も鈍い。

また、中国は需要のサポートではなく、供給能力の強化を優先して経済政策を強化した。EV、風力発電機器など安価な中国製品の流出は加速した。米欧が対中制裁関税を発動し、通商摩擦が激化する恐れもある。それは、世界の供給網(サプライチェーン)の不安定化につながり、コストプッシュ圧力増大につながる恐れもある。