バラつきのある医師の能力をサポート

医療・ヘルスケアという分野は、病気になってから治すというだけではなく、人々の健康を維持したりウェルビーイングを高めるために貢献するというように再定義して、人々の未来を一緒につくるような役割も重要な側面になるでしょう。

ある国は、プライマリードクターの役割を、地域の健康を診るということに位置づけています。その概念はものすごく素晴らしいのですが、待ち時間がすごく長くなり、現実的にはその仕組みは破綻しているようです。背中が痛いと感じて医者に診てもらうまでに、2週間。診てもらったら「整形外科に行ってください」。整形外科でちゃんと診てもらうのに、結果的に1カ月もかかってしまうというような状況です。その間に失われる命ももちろんいっぱいあるのです。

そこで、データとAIを活用する新しい医療のあり方を考えることは大事なことだと思います。生成AIに関しては、ふたつのフェイズで考える必要があると思います。現状で生成AIが即戦力となるのは、概要をつくる能力。患者さんに説明するときに、中学生の子供にわかりやすくとか、高齢者の方にわかりやすくというように、それぞれの患者さんにわかりやすい語彙でまとめる部分です。ただし正確な診断という点においては、現状まったく使いものになりません。

ただ生成AIはものすごいスピードで改善しているわけですよね。チャットGPTでも、前は嘘か本当か検証できなかったけれども、今は使い方を工夫すれば何を根拠にそういう言葉を作ったのか、引用元を提示させることができます。そういう正確性を担保した判断というところが、これから間違いなく発展していきます。

今すぐではないにせよ、いずれ生成AIが問診をサポートする、さらには代替していくようなフェイズに必ず入っていくと思います。そうなりますと、一人一人の医師の臨床能力がバラついている部分を、しっかりサポートしていくことが可能になる局面がやってくるでしょう。

生成AIが問診を代替するフェイズがやってくれば医者格差リスク軽減

地域格差も少なくなっていくと思います。もちろん外科のような高度集約的な機能をどこでもまんべんなくできるようになるのは簡単ではありませんが、そういうものを除けばAIとデータ活用は、多くの人たちへの質の高い医療の提供と健康的な暮らしの寄与につながっていくと思います。

医師はそれぞれが、エビデンス・べースド・メディスンといって最良の根拠を基にした治療を行わないといけません。そのためにも一人一人が最新の論文を定期的に読んで自分をアップデートし、この症状の患者に対して世界中の薬の中で何が一番いいかと判断しないといけないのです。とはいえすべての論文を読むことなどできません。症状を打ち込めばおおまかな判断は高度なAIが当たりをつけてくれ、最後の決断は人間が責任を持って行うという方向にシフトしていくことも可能になるでしょう。

AIの発展で医師の役割がなくなるというよりも、これまでやっていたことの一部をAIに任せ、人間が注意力を使いながら行うべき分野が変わっていくという感じですよね。例として医師は患者さん一人一人のライフスタイルに注意を払いながら、普段どのように行動したらいいのかアドバイスをしたり、患者さんに寄り添う方向で役割を深めていくかもしれません。