今の時代とおいらたちの世代

オレの場合、頭のなかに映写機が入っていて、そのなかで役者を動かしたりする。そうしてできた映像を現実に撮りにいく。頭で見た夢をそのまま撮ってるようなものだね。ただし、現実と頭のなかの映像がまるっきり同じにはならない。背景の色が違ったり、天気が違ったりするわけだから。しかし、それはそれとして、自分としてはできるだけ頭のなかの映写機に映った映像をフィルムに定着させたい。

それと、あまり語らなくていいと思っている。なるべく観客に考えさせてあげるのがいい映画じゃないかな、と。外国の人はそういう考えに賛成してくれるのだけれど、日本人はどうも違ってきた。

「あなたの映画の見方を先に教えてくれ。その通りに見るから」という時代になってきた。

「これは青いものです」と言ったら、すかさず「ああ、青いです」と答えるんだ。

「ほんとか、おまえ? ほんとに青いのか?」という反応がなくなってきた。

ファッションだってそうでしょう。客が自分で好きなものを選ぶんじゃなくて、ある指導者が「これが流行です」と言うのを待ってる。そして、「これです」と言ったら「そうですね」と買っていく。

オレみたいに「ちょっと考えればわかるよ」という映画の撮り方をすると、ほとんどの客はとたんに困ったような顔になって、もっと説明してくれという。困った時代だね。そして、もっとひどいのになると、「監督、今度の映画は泣けますか?」と聞いてくる。あのね、泣きたいんだったら、とことん貧乏すりゃいいんだよ。映画見るより、貧乏したほうが絶対に泣ける。

まあ、そんな具合にみんなが何も考えないで答えを待つ時代になった。考える手間を惜しむというか……。だから、おいらたち団塊世代はもう失うもんは何もない。“俺たちには明日はない”。

そうだ。この雑誌は団塊の世代が読むんでしょう。そうしたら訴えたいね。みんなをたきつけてもう一度、国会へ行こうって。角材持ってヘルメットかぶって、国会へデモしたい。殴り込む要素がたくさんある時代だから、みんなで国会へ突入したいね。面白いよ、きっと。

(構成/野地秩嘉 撮影/岡倉禎志、森昌行 衣装協力/YOHJI YAMAMOTO ヘアメイク/海野善夫 スタイリスト/市村幸子)