認知症の徘徊でも交通事故は避けようとする

長年、高齢者の精神医療を専門としてきましたが、私が担当した方で徘徊中に交通事故に遭ったり、高いところから落ちるなどして亡くなった人は一人もいません(土手から落ちてケガをした人はいました)。つまり認知症が進んで徘徊しても、自分の命の危険は判断できると考えられます。歩行速度が遅くなって青信号の間に道路を渡り切れなくなることはあっても、赤信号に突進することはまずありません。

認知症を発症しても、すぐにすべての認知機能がなくなるわけではないのです。

認知症になった人に対して、周囲が先回りして外出や仕事などをやめさせてしまうことは多いのですが、オール・オア・ナッシングで考える必要はありません。習慣的にやっていたことは認知症になった後も長く続けられるケースが多いのです。

だから親や伴侶が認知症になった時にも、なるべく自由にしてあげてください。

「物忘れが多くなる」「自分の年齢を間違える」「道に迷いやすくなる」「物事の理解がうまくできなくなる」など、見ていて心配になることは増えていきますが、これらのリスクの多くは、あらかじめ対策をとることで減らすこともできます。

邪魔者扱いして叱ってばかりいると問題行動が増える

できないことは多くなりますが、本人が「やりたい」と思っているのなら、その気持ちを大切にしてあげてください。そして、なるべく本人ができるように手助けしていくのです。「やりたい」という意欲こそが気力や行動力の源になり、行動すれば症状の進行を遅らせることが期待できます。

たとえば料理をしたいけれど手順がわからなくなってしまっているようなら、さりげなく次の作業に導いて、本人のプライドを傷つけないように支援してあげましょう。それで本人が楽しく暮らすことができれば、周りの人との関係もよくなります。逆に、邪魔者扱いをしたり、やたら叱ったりすると、問題行動をとることが多くなってしまいます。

認知症の介護で一番必要になるのは「聞く力」です。本人の話したいことであれば、同じ話題でも何度も耳を傾けて「そうだね」と相づちを多用して受け止め、本人が話したいと思っていることを推測しながら質問をしていくのです。そうすると認知症の人は話がしやすくなります。時には無理な要求をされることもあるでしょうが、その場合は「そうだね……でもね」「うん……でもね」と返す。ポイントはとにかくいったん受け入れることです。