話もせず「嫌いだから帰せ」

私も一瞬どうしようかなと迷いましたが、ここで女だからといって入らなかったら、毎回トイレに逃げれば私は来ないと学習して、会えなくなる。

「よし、入ろう」と決めて、私は「入りまーす!」と言って男子トイレに入りました。

授業中だったのでトイレには誰もいません。その中で、この子はトイレの個室に入って鍵を閉めてしまったのです。

私はドアを外からコンコンとしながら「堀井です」と自己紹介をしました。

無言の彼に対し、バイクに乗ったりしたら危ないとか、命にかかわるから心配して会いに来たんだよ、といつもの押し売りをドア越しに続けました。

だけど、その子から返ってきた言葉は「帰れ」の一言です。

どうして会いたくないの、なんで? と訊いてみてもずっと無言で、私もトイレの前で粘って待っていましたが、全然出てくる気配もなく、根比べのようになりました。

そのうち、養護の先生が心配して来てくれました。ハヤトと関係ができている先生が、せっかく堀井さんが来てくれているのだから出てきたらと言ってくれるのですが、「嫌いだから帰せ」と言うのです。話もしていないのにすっかり嫌われ者です。

母親は覚せい剤で何度も連行されていた

だけど、それにも必ず理由があるはずです。何とかその理由を探らなければいけません。

「分かった、じゃあなんで嫌いなのか、理由を教えてくれれば、今日は帰るよ」と伝えると、この子からは「警察はお母さんを捕まえるから嫌い」という返事が返ってきました。

「警察はお母さんを捕まえるから嫌い」(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/y-studio
「警察はお母さんを捕まえるから嫌い」(※写真はイメージです)

なるほど、ちゃんと理由がありました。

この子は、お母さんが覚せい剤使用で何度も警察に連行される姿を見てきていたのです。警察は大好きなお母さんを連れ去る敵だったのです。