検察の「従軍記者」のようになっている

「大穴」の問題に触れることなく、「日本最強の捜査機関」の東京地検特捜部が、政治資金規正法違反事件として処罰できるかのように報道されていれば、世の中の関心は、「検察当局の方針と判断」に向けられる。メディアが検察当局からの情報提供(リーク)を報道していくことで、検察の威信は保たれ、在京主要メディアの「プライオリティー」も維持できる。

もともと、司法クラブを中心とする「司法メディア」は、検察という軍隊の「従軍記者」のような存在だ。従軍記者にとっては「軍の華々しい戦果」を報じることが仕事であり、「実は軍が使おうとしている武器には致命的な欠陥がある」などということを報じたりはしない。

そのような事情から、「ザル法の真ん中に空いた大穴」の問題は、ラジオ、関西ローカルのテレビ、ネット、BS等のメディア等では取り上げられるが、在京主要メディアでは、その問題自体にまったく触れようとしないと考えられる。

インタビューで、それぞれのメディアが録音マイクを向けている
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法を作るのは国会で、検察は、法を「適用」する立場だ。法の欠陥や不備があっても、与えられた武器としての現行法を最大限に活用して事実解明を行い、可能な範囲の事実で起訴して処罰を求めることが、その使命だ。

今回のパーティー券裏金事件についても、「大穴」が空いている政治資金規正法だけでは十分な処罰ができないのであれば、他の法律の活用も考えることになる。

「領収書不要の金」に対する抵抗感がほぼない

しかし、メディアの役割は、そのような捜査機関とは異なる。検察の価値観を代弁し、その見解をそのまま受け入れ、検察から公式、非公式に提供された情報で事件を報じていくという、「従軍記者」的な役割だけではないはずだ。国民の目線から、「素人」の感覚から、報じられている捜査機関の動きを客観的にとらえ、疑問な点には疑問をぶつけていく姿勢のメディアも必要なはずだ。

しかし、そのような姿勢は、これまでの「特捜事件」と同様に、少なくとも在京の主要メディアにはほとんど見られない。

結局、「裏金」に対する世の中の反発に便乗し、検察捜査で国会議員の逮捕・起訴への期待を煽る方向では夥しい数の報道が行われるが、捜査機関の動きから離れて何が根本的な問題なのかを、考えていこうとする姿勢は希薄だ。

私が指摘する「政治資金規正法の大穴」は刑事処罰に関する実務上の問題なので、自民党議員が認識し、裏金の受領では処罰されないと考えて、それを敢えて行っていたわけではないであろう。寄附収入があれば、何らかの形で、政治資金収支報告書に記載して処理しなければならないとの一般的な認識はあったはずだ。

むしろ、問題は、自民党派閥や国会議員側に「領収書不要の裏金」に対する抵抗感が著しく希薄だったことであり、その根本的な原因は、上記のとおり、政治家個人あての寄附は禁止されているのに、「政党からの寄附」が除外され、党本部から政治家個人に政策活動費などの名目で「領収書不要の裏金」を渡すことが事実上許容されてきたことにある。

議員達の「遵法意識」の欠如を非難するだけでなく、ルールを法目的実現のために実効性のあるものにしていかなければ、本当の意味での問題解決にはならない。」