今年9月、島根県松江市の道の駅に段ボール製の授乳室が設置されて、議論を呼んだ。武蔵大学社会学部教授の千田有紀さんは「この問題の本質は、安全性などの段ボール授乳室の機能面にあるのではない。段ボール授乳室でも『(ないよりはいいので)ありがたいです』と言わざるを得ない、子育て世代が置かれている状況こそ、改善の余地があるのではないか」という――。
赤ちゃんを抱く母親
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段ボール授乳室に集まった批判

島根県松江市の道の駅「秋鹿なぎさ公園」に授乳室が設置されたのは、9月のことである。設置されるやいなや、SNSでは批判が噴出した。幅1メートル、奥行き2メートルの2平方メートルほどのこの授乳室は段ボール製で、もともとは、災害時の避難所などで使うことを想定して作られたものだった。

批判を受けて、この授乳室には鍵や天井をつけるなどの改良が加えられているようである。

この段ボール授乳室は、なぜ“炎上”したのだろうか。

段ボール授乳室の問題点は明らかである。まず当初、入り口には鍵どころか扉もなく、カーテンで仕切られただけのものだった。そして狭く、天井はなかった。(のちに、天井をつけて、階段下の奥まったスペースへと移動している)。

なかには授乳用の椅子が置かれているだけで、荷物を置く台もなく、オムツ替えのスペースもない。報道を見た様子からは、上の子が一緒の場合は、カーテンの外に飛び出してしまいそうで落ち着かないのではないか、などと想像してしまった。

また、授乳時には子どもが吐き戻したり、オムツ替えが必要になったりもする。掃除や消毒など、衛生的に保てるかどうかについても、疑問を持った。さらにネットのニュース番組では、段ボール会社の社長が、「授乳室を横から押せば、簡単にコロンと倒れてしまう」と、安全性に問題があることを指摘していた。

しかしおそらく、こうした段ボール授乳室の欠点は、この炎上の本質的問題ではない。