つまり、筋肉を鍛えている人は脳の神経細胞も一緒に増やしているということです。
「脳の神経細胞って、大人になってからでも増えるの?」と、驚く人もいるでしょう。
おっしゃるように、少し前までは、脳の神経細胞は成人後に増えることはないと考えられていました。しかし現在は、脳の神経細胞は年をとっても増えることがわかっており、ハーバード大学医学部のレイティ博士は、「運動こそが、脳の神経細胞を増やすために最も効果が期待できる」と述べています。
筋肉が萎縮したマウスは記憶障害になった
さらに運動には、感情や思考に関係するドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の分泌を促す効果もあるといわれており、認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)の初期に見られる「めんどうくさい」を改善するうえでも最適です。
逆に、運動不足によって筋肉(骨格筋)が萎縮すると、それだけでアルツハイマー型認知症の発症につながることが、富山大学の東田千尋教授らの動物実験で明らかにされています。マウス(若齢のアルツハイマー病モデルマウス)に筋肉の萎縮を誘発したところ、そうでないマウスにくらべて若年例でも記憶障害が発症していたというのです。
認知症の予防、および認知症グレーゾーンからの回復を果たすうえで、運動習慣は不可欠といえます。
認知機能が平均34%アップした「すごい歩き方」
中高年の方から「足腰を鍛えるために、毎日ウォーキングをしています」という声がよく聞かれます。ウォーキングは、呼吸で取り入れた酸素を使って脂肪を燃やす有酸素運動。健康増進やダイエットには最適です。
しかし、ただ歩くだけのウォーキングでは、認知症対策に必要な「筋力の増強」にまではつながらないことが、中高年を対象とした調査で明らかにされています。せっかく歩くなら、しっかりと筋肉をつけて、認知症予防にも役立てましょう。
そこでおすすめなのが、ウォーキングよりも、「インターバル速歩」です。
インターバル速歩とは、筋肉に負荷をかける「さっさか歩き」と、負荷の少ない「ゆっくり歩き」を交互に繰り返すウォーキング法の一つ。筋力や持久力を無理なく高めることができる中高年向けのトレーニング法として、信州大学大学院特任教授の能勢博先生らが提唱しているものです。
高齢者を対象にインターバル速歩を5カ月間行ってもらった研究によると、参加した人の体力が平均6%向上したといいます。さらに、参加者のうち2割は認知症グレーゾーンと診断されていましたが、インターバル速歩を行ったあとは、認知機能が平均34%も改善されていたそうです(能勢先生が理事長を務めるNPO法人 熟年体育大学リサーチセンターの研究より)。