Q 新卒で入社3年以内に辞める人の割合が高いと聞きます。私はまだ入社前ですが、せっかく厳しい就職戦線をくぐり抜けて入社した会社を3年もたたずにやめるようなもったいないことはしたくありません。そうならないようにするには、どんなことに気をつければいいでしょうか。(大学生、男性、20歳、入社前)


A 大学生のあなたは、先輩たちが就職活動で苦労しているのを目の当たりにしていることでしょう。ですから、苦労して入社した会社を3年も経たずに辞めるなんてもったいない、と思っているかもしれません。

しかし、着目すべきは、「もったいない」という基準がどこにあるかです。

サラリーマンは、給料を貰いながら自力を蓄えられるとても恵まれた環境にいます。

業種や業界によっても異なりますが、入社3年目というのは、新社会人からの教育の初期投資が一段落し、そろそろ会社の利益に本格的に貢献してくれることを、会社が期待する年代ではないでしょうか。

拙著『プロフェッショナルサラリーマン』の読者に、僕が「サラリーマンを辞めてはいけない」というメッセージを発しているというふうに誤解されることが時々あります。

しかし、プロサラのゴールは、「選択肢を持てる立場になろう」ということです。他でもやっていけるチカラを持ちながら、そのまま現在の会社で存分に活躍して定年を迎えるのもカッコイイことですし、飛躍を目指して転職や起業をして更なる社会貢献を志すのもすばらしいことです。

つまり、あなたがイキイキと活躍することがなによりも大切なのです。

ビジネスのフィールドに身を置く以上、会社をどれだけ儲けさせたかという点は無視できません。そして大切なことは、その過程で培ったチカラをどこで発揮することが社会全体に価値をもたらすか、ということです。

そもそも、組織に貢献していなければ活躍しているとは言えませんし、成果が認められることはありません。

「もったいない」の基準が、自分本位ではなく、会社基準で考えたときにどうなるか、という逆転の発想が重要なのです。

それでは会社に辞め時というものは存在するのでしょうか?

自分がチカラを発揮する場所として今の会社が相応しいかどうかを考える基準として、著名経営学者のピーター・ドラッガー氏は以下のような言葉を遺しています。

組織が腐っているとき、自分がところを得ていないとき、あるいは成果が認められないときには、辞めることが正しい選択である。出世は大した問題ではない。
― P.F.ドラッカー『非営利組織の経営』

つまり、

(1)組織が腐っている
(2)自分がところを得ていない
(3)成果が認められない

という3つの視点です。

大企業であれば、小さな資本で起業する自分のビジネスよりも大きな仕事ができる可能性が大きいでしょう。

しかし、そのぶん組織が硬直化していたり、稟議書に大量の押印が必要でにっちもさっちもいかない、ということも十分に考えられます。

反対に、中小零細企業では、裁量ある仕事に挑戦でき、事業と共に自分のチカラを伸ばす環境が得られる傾向にあります。

しかし、社長による当たり外れが大きいですし、職場環境が整っていないことも多いかもしれません。

留意すべきなのは、どのような環境下で働くにせよ、ドラッカー氏の3つの着眼点についても、今の場所で思い切りやってみれば遅かれ早かれ手応えは分かる、ということです。どうせダメなら早く分かったほうがいいのではないでしょうか。

僕の知り合いで、「本当は明日にでも会社を辞めたい」という人がいます。でもあと10年我慢すれば定年扱いになる。そうすれば自己都合退職のときに比べて退職金が1000万円ほど多くなるという。「だからあと10年、耐え忍びます」というので、僕はビックリしました。それではまるで、自分の10年という年月を、わずか1000万円で売り飛ばすようなものです。なんだかもったいない気がしてなりません。

大事なのはこれからの時間をどう生きるか。

挑戦の結果で分かったことをすべて今後の糧にし、何かあったら潔くスタートラインに戻るつもりでいること。いつでも押せるリセットボタンだからこそ、せっかくの居場所でキャリアに利息を付ける努力を厭わないでください。それをどこで下ろすかはあなた次第です。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)