世界各国で遺伝子研究が急激な発展を遂げている。北海道大学客員教授の小川和也さんは「すでに、自分に対して改変された遺伝子を注射する人体実験や、ヒトとサルの“キメラ”を生み出す研究が進んでいる。中国では生まれる前に遺伝子操作をほどこした“ゲノム編集ベビー”がすでに誕生しており、人間の科学は神の領域を侵食しつつある」という――。

※本稿は、小川和也『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

ヒトの胎児とDNAらせん構造の3Dイラスト
写真=iStock.com/Rasi Bhadramani
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一般市民の間でも広がる「遺伝子実験」

地球環境の変化による食糧危機の解決や、いまは治療できない難病の克服など、ゲノム編集技術は未来の社会課題解決への希望を感じさせる。一方、技術が進展する力強さに対し、ルールづくり、規制、倫理観が追いつかず、技術がひとり歩きする危険性があることは否めない。技術のひとり歩きを示す一例として、「DIYバイオ」の広がりを紹介したい。

DIYバイオとは、研究者ではない一般市民が、日曜大工のように自宅でバイオテクノロジーの実験を行う活動のことを指し、欧米、そして日本でも広がり始めている。このDIYバイオは、実験材料やデータ、成果発表のオープンなやり取りを促す「オープンサイエンス」に源流があるとされ、人々が科学に関わり、研究を遂行することを容易にし、知識格差の解消を目指す大きな文脈を背景とする。

こうした広がりは、ゲノム編集がもはや専門家ではない個人でも遺伝子を改変できる技術となり、気軽にバイオ実験ができる環境を整えたことの証である。ネット通販で遺伝子実験キットを購入し、自宅で遺伝子組換え植物の栽培や培養細胞を増やして人工食肉を作ることを試みるなど、まさにバイオテクノロジーはDIY化した。一方で、自分の身体に改変された遺伝子を注射する人体実験を行う人も現れた。

2017年10月、カリフォルニア州オークランドのジョサイア・ザイナーさんは、筋肉の成長を目的に、筋肉の成長を邪魔する遺伝子「ミオスタチン」を切断する人工の酵素を注射器で注入した。このゲノム編集の人体実験はネットで中継され、波紋を投じた。