お腹の調子がいいと、気分が良くなって社交的に
腸内細菌がないマウスという非常に特殊な状況が、私たち人間にもそのまま当てはまるか、と疑問を持つ人も当然いるでしょう。では私たち人間にも当てはまる、自閉症についてのお話を紹介しましょう。
自閉症は、自分の殻に閉じこもるように誤解されることもありますが、そうではなく、「周りの人たちとうまく関係を築けない」「話すのが苦手」「特定のものへの執着と同じ行動の繰り返しを好む」という特徴的な社会的ふるまいを持つ障害であり、これらを包括して自閉症スペクトラムと呼ぶこともあります。
自閉スペクトラム症の子供たちの多くには、慢性的な腹痛、消化不良、下痢、便秘など、消化器系の問題があることが知られており、これらの症状は注意力や学習能力、または行動に悪影響を及ぼしている可能性があるといわれています。
自閉症と腸内細菌の関連は早くから研究されており、自閉症スペクトラムの子の腸内細菌は、健常児と比較して種類が少なく、クロストリジウムという菌が特に多いことが知られています。⑤
子供たちの腸内細菌は母親によって決まることが多く、母親の胎内にいるときに母親が抗生物質を使ったり、あるいは帝王切開で菌のシャワーを浴びる機会がなかったりすると、腸内細菌に偏りが出て、のちの自閉症のリスクに関連するといわれています。
そこで、自閉症の子たちの腸内細菌を、健常児の腸内細菌と入れ替える、うんちの移植が行われました。移植後2年間追跡調査したところ、治療を受けた自閉症の子どもたちは消化器系の症状に改善が見られたほか、多くの患者は自閉症に特徴的な「社会的ふるまい」にも45%に改善が見られたそうです。⑥
お腹の調子がいいと、気分が良くなって社交的になったり、精神疾患が軽快したりするのは当然かもしれません。それでも腸内細菌は私たちの心にとっても非常に大切で、色々な方面から役に立っていることに疑う余地はありません。
出典
① Levitt MD, Duane WC. Floating stools-flatus versus fat. N Engl J Med. 1972; 286:973-975.
② Musheer Aalam SM, et al. Genesis of fecal floatation is causally linked to gut microbial colonization in mice. Sci Rep. 2022; 12(1):18109.
③ Algera JP, et al. Associations between postprandial symptoms, hydrogen and methane production, and transit time in irritable bowel syndrome. Neurogastroenterol Motil. 2023; 35:e14482.
④ Wei-Li W, et al. Microbiota regulate social behaviour via stress response neurons in the brain. Nature. 2021; 595(7867):409-414.
⑤ Lee YM, et al. Microbiota control of maternal behavior regulates early postnatal growth of offspring. Sci Adv. 2021; 7(5):eabe6563.
⑥ Kang DW, et al. Long-term benefit of Microbiota Transfer Therapy on autism symptoms and gut microbiota. Sci Rep. 2019; 9(1):5821.