なぜ「ディズニー映画離れ」が起きているのか
黒人アリエルを起用したことで話題になった『リトル・マーメイド』は2023年5月から興行を開始し、世界的にみれば5.6億ドル(約800億円、レートは当時のもの。以下同)。悪くはないが、2.5億ドル(約357億円)の制作費をかけたにしては想定よりも低い結果であったし、特に人種問題と縁遠い日本市場でいえば2カ月間での結果は約30億円、明らかに「失敗だった」と言える数字だろう。
『リトル・マーメイド』に限らず、ディズニー映画は、ここ最近ヒット作に恵まれていない。国内の興行収入100億円を超えた作品は、アニメでは『アナと雪の女王2』[133.7億円(興行通信社調べ。以下同)、2019年11月公開]、実写では『アラジン』(2019年6月公開)以降生まれていない。
日本の映画市場において、実はコロナ期は革命的な変化をもたらした。洋画と邦画の逆転である。洋画は『スター・ウォーズ』の1970年代後半から勢いを伸ばし、1980~2010年代の40年にわたって日本映画市場の5割を占めてきた(2000年前後は洋画7割時代すらあった)。
だがコロナで物理的に「洋画」の制作・上映ができなかった2020~21年を経て、実は2022年においても日本市場における洋画シェアは3割と、回復していない。
この期間、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(404.3億円)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(102.8億円)、『ONE PIECE FILM RED』(197.1億円)、『すずめの戸締まり』(148.6億円)、どれほど多くの邦画・日本アニメの大作が生まれただろうか。
洋画シェア3割(しかない)世界線は実は1960年前後の日本映画黄金期以来、初めての数字だ。それはすなわち洋画のなかで日本人の心に最も響いてきた「ディズニー」から日本人の心が離れ始めているということでもある。
日本だけでなく世界でも不調
1950年代に大映が日本市場へのライセンス窓口となり、任天堂がトランプを作ってきた時代からずっと日本市場に根差し、1959年にウォルト・ディズニー・エンタープライズを設立して以来、外資でもっとも日本に張ってきた企業といっても過言ではないだろう。
ディズニー離れは日本だけで起こっている現象ではない。米ウォルト・ディズニーが8月9日に発表した【2023年4〜6月期決算】で、最終損益は4億6000万ドルの赤字(前年同期は14億900万ドルの黒字)だった(日本経済新聞8月10日配信)。
赤字の最大の要因は「Disney+」の不調だ。自社の動画配信サービスからコンテンツの一部を削除したことに伴い、24億4000万ドルの減損費用を計上したという。
一時はNetflixやAmazon Primeに迫る勢いだったDisney+は、2022年12月末をピークに、会員数が減少。今年2月には、動画配信サービスの成長の鈍化による赤字で、ウォルト・ディズニーは従業員7000人をレイオフを発表した。
いったいディズニーに何が起こっているのか。直近の窮状を皮切りに、今回はその一つの遠因ともいえる「経営者の世代継承問題」について分析してみたい。