芸能人の自殺など、突然の訃報に「なぜあの人が」とショックを受ける事件は少なくない。もし身近な人に「死にたい」と言われたら、どうすればいいのか。心理学者の末木新さんは「『死にたい』と打ち明けた人間が最も恐れるのは、意を決して行った重大な自己開示が軽く扱われること。その気持ちに向き合うことは、打ち明けられた側にとってもしんどくて恐い。そんなとき、取ってはいけない対応を知っておこう」という――。

※本稿は、末木新『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

深い悲しみに暮れている女性
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自殺の3つの要因から危機介入の戦略を考える

それでは、実際に自分で自殺を防ぐことに挑戦してみようと思った場合に、どのようにすれば良いのでしょうか。その場合には、自殺がなぜ起こるのかについて分かっていることから逆算して、要因となりうるものを一つずつ排除していけば良いということになります。ここでは、具体的に、自殺の対人関係理論に沿って考えてみたいと思います。

自殺の対人関係理論とは、自殺潜在能力、所属感の減弱、負担感の知覚という3つの要因が重なった時に自殺の危険性が最大化すると考えるという理論でした。自殺を予防したいのだとすれば、これらの要因をひとつずつ取り除き、3つが重ならないような状況を作れば良いということになります。

3つの要素をひとつずつ取り除くと書きましたが、優先順位があります。

3つの内、最も優先すべきなのはもちろん、自殺潜在能力への対応ということになります。死にたいか否かに関わらず死んでしまったら生き返らせることはできないので、とにかくこの部分を優先するように考えるのは自然なことです。

まずは用意したものを使えないように物理的介入をする

では、具体的にはどのようにすれば良いのでしょうか。人間は自分の力だけで死ぬことは基本的にできませんので、自殺をする際には何らかの手段を用意する必要があります。この手段を「物理的に」使えないようにすることによって(例:首を吊るために用意してあった縄をあずかる)致死的な自殺企図をできないようにするのが実施すべき第一の介入ということになります。

逆に言うと、これをやるために、「死にたい」と言われたら、「死ぬための手段は具体的に考えているのか? それはどの程度までちゃんと用意しているのか?」ということを聞く必要があるということです。多くの人は人生において誰かにこんな質問をしたことがないはずですし、初めてこんな質問をする時にはためらいも生じるのではないかと思います。変に具体的な手段について聞いたりすると、背中を押してしまうのではないかと不安になるのも、それほど不思議なことではありません。

しかし、このような質問をすることがネガティブな影響を持つ可能性は低く、こうした心配は杞憂きゆうに終わります。というのも、「死にたい」と打ち明けた人間が最も恐れるのは、意を決して行った重大な自己開示が軽く扱われることだからです。「もう具体的な方法を考えているのか?」という質問は、「死にたい」という自己開示を重く受け止め、本気で死を考えているのだと理解したからこそ出てくる質問です。そのため、こうした質問が自殺のリスクを高めることにつながる可能性は低いというわけです。