「保護したが必要なかった」と判明するぐらいでいい

そしてまさに三重県のポリシーにあるように、保護した結果、虐待がなかったと判明したら、それは「良かった」と判断すべきことだ。児相は親との信頼関係を築くことも求められるが、それよりも子どもの安全を優先すべきであり、保護したことで親と敵対してしまったらその後、修復に努力するしかない。その時、気をつけなければならないのは、親が子どもに会わせてくれなくなった時の子どもの安全確認の方法である。年齢が低い子どもは自分から助けを求められない。だからこそ、保育園などの関係機関での安全確認が重要であり、そこで安全確認できなくなった時に、虐待を疑わなくてはならないのだ。

さらに、家庭復帰後の通告により、児童相談所が子どもの傷・あざを確認しながらも保護しなかった理由として「母親に指導に従う姿勢があった」とあったが、これは児童相談所の一時保護をしない判断理由としてありがちな考えである。「何かあればこの母親は相談してくるだろう」と考えるから保護しないのだが、この考えは非常に危険だ。もちろん、虐待で児童相談所が関わっている母親で、自分が子どもを虐待してしまうことに悩んでいて、「また子どもを叩いてしまいました」と相談してくる母親もいるし、実際私も「このままでは子どもを殺してしまうかもしれません」という相談を受けたこともあった。

息子の手をひいて歩く母親
写真=iStock.com/kohei_hara
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子を保護されたくない親は嘘もつくし隠しごともする

しかしながら、自分の虐待を隠そうとする親の方が当然多い。確かに、母親自身が本当に困れば相談してくるだろう。私の経験では、母親が「子どもを預かってほしい」と相談してきた理由が「実は彼氏と一緒に住みたいから」ということもあった。つまり、「母親が困っている」というのは、「子どもが傷ついている、苦しんでいる」とイコールではないということを児相職員は知っておかなくてはならない。

子どもを虐待しながらも保護されたくない親は、嘘もつくし、隠しごともする。「なぜ自分が虐待してしまうのに、保護してほしくないのか」と疑問に思う方もいるだろう。実は虐待というのは中毒性が非常に高い。親は、子どもがいなくなると虐待できなくなるから困るのだ。だから子どもに執着する。つまり、「親が指導に従う姿勢がある」は、保護しない理由であってはならないのだ。