「野良猫が多い。自治会で何とかしてもらえないか」

目黒さんはおよそ700世帯が暮らす団地住まいで、その地域を束ねる自治会の会長を務めています。団地に古くから住むお年寄りの方はこれまで、野良猫の存在を気に留めていませんでしたが、最近引っこしてきた若い人たちから「野良猫が多い。自治会で何とかしてもらえないか」と言われたそうです。

「“何とか”と言われてもなあ……」と、目黒さんはずいぶん頭をなやませました。そして行政では野良猫に対してどのような取り組みをしているのか、調べてみたのです。その時「TNR」という言葉が目に入りました。

TNRとは、
野良猫をつかまえて(トラップ/Trap)
不妊手術(ニューター/Neuter)を行い、
元の場所にもどす(リターン/Return)の略で、一代限りの野良猫の命を地域みんなで見守る活動のことです。

目黒さんはこれだ! と思いました。

(団地には猫好きな人ときらいな人がいる。えさをあたえる人もいれば、水を入れたペットボトルを家の前に置いて猫を追いはらう人もいて……だから、となり近所のけんかのもとにもなる。まず有志のメンバーで団地内の猫をつかまえて不妊去勢手術をし、団地内にもどす。猫の数はそれ以上増えないようにして、その限られた猫をみんなで見守るということができないだろうか)

そうして目黒さんは石岡市でTNR活動にはげむ長谷川さんと知り合い、手術日に合わせて団地内の野良猫をつかまえ、手術を受けさせるようになりました。

手術代はオス7000円、メス1万円

そう、モコ先生が行うのは、この「不妊去勢手術」です。オスなら精巣、メスなら卵巣などの生殖器を切除します。手術をすると、オスはメスを妊娠させることがなくなり、メスは妊娠しなくなります。つまり「子猫」が生まれなくなるのです。

手術費用については2023年現在、助成をしている自治体が増えています。ここ茨城県なら、野良猫に対する不妊去勢手術代としてオス7000円、メス1万円の助成金が出ます。自治体の助成金でまかなえれば、野良猫をつかまえた人が手術代を負担する必要はなくなります。

撮影=今井一詞
手術中のモコ先生。

とはいっても本来、飼い猫であれば2万~3万円はかかる手術です。獣医師にとっては通常よりはるかに安い額でうけ負わなくてはなりません。

しかも速く正確にこなせるうでも必要です。朝は、目黒さんのようなボランティアさんたちが続々と、石岡市のこのマンションに野良猫を預けにきます。そしておむかえにくる夕方までに、手術を終えなければなりません。手術後は飼い猫ならゆっくり療養できます。でも野良猫の場合、手術日のみ猫をつかまえたボランティアさんが預かるものの、翌日には元の場所にリターン。この先も屋外で元気に生きていけるように、猫の体に負担なく手術を行える技術が必要なのです。

今日はモコ先生の他二人の獣医師、青山千佳先生と満川映美子先生が手伝ってくれることになりました。

青山先生もモコ先生と同じくショートカットですが、クールな印象です。でも猫にさわる時は、目じりが下がってとっても優しい表情。動物が大好き、という想いがにじみでています。

満川先生はモコ先生の手術を見て勉強中とのこと。ていねいに「初めまして」のあいさつをしてくれて、大きな目ではつらつとした風ぼうです。