家族に迷惑をかけたくなければ、加入すべき?

先の通常国会で認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が成立した。厚生労働省の研究班による推測では、2025年には5人に1人、700万人が認知症になると言われていることからも、認知症の人が希望を持って暮らせる共生社会を築けるよう、国と自治体に対策を取り組ませることを定めた本法の成立は、一歩前進と言えるだろう。とはいえ、国民の認知症にたいする認識は、まだまだネガティブなものが少なくない。

「認知症になったらどうしよう」
「家族に迷惑をかけるのではないだろうか」

認知症になって要介護状態となった場合、そしてその出費などを考えて、このような不安にかられてしまう人もおられることだろう。

不安な人が増えてくれば、その不安を商機ととらえて商品を開発する人たちも増えてくるのが世の常だ。じっさい昨今、保険会社からは「認知症保険」なる商品が相次いで発売されている。

そしてこれらの保険会社の広告には「経済的負担が大きい認知症介護に手厚く備えられます」とか「人生100年時代の今だからこそ、ご自分や家族のために今から備えておきませんか?」といった文言が踊っているものだから、これらを見ればみるほど、よりいっそう不安にかられて焦る人が増えてしまっても、無理からぬことであろうとは思う。

在宅医療
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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そもそも認知症とはなにか

しかしこの「認知症保険」なるものは、本当にこれらの人たちの不安を解消してくれるものなのだろうか。これによってどれほどの安心が「買える」のだろうか。この保険商品を購入しておかないと、将来かなり困った事態に陥ってしまうのだろうか。

本稿では、数ある「高齢社会向け商品」として市中で売られているもののなかでも、保険、とくにこの「認知症保険」について考えてみたい。

さまざまな保険会社から発売され、その各々の商品は会社によって多少の違いはあるが、多くの場合、保険料は毎月8000円程度で、いわゆる「掛け捨て」のようだ。そして保障はというと、これも商品によって多少の違いはあるものの、医師に認知症と診断され、さらに要介護1以上の場合に「一時金」として100万円~500万円の保険金が支払われる商品が多いようである。最大で1000万円を保障する商品も登場している。

ではそもそも認知症とはなにか。冒頭にて触れた認知症基本法によれば「アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう」と定義されている。すなわち「認知症」は病名ではなく、状態であるということである。