2度の育休でチームに何が起こったか

ところが3回目の育休からは、時短勤務の社員が罪悪感なく早帰りできるようになり、これが他の社員にも波及し始めました。「皆が、早く帰っても仕事がちゃんと回るということに気づいた」そうで、以降、効率的に働く、明日でもいいことは明日に持ち越すなど、皆の働き方が徐々に変わっていきました。

同時に、青野社長も全社員に向けて「子育て>商売」という価値観を発信。子どもが減れば次の市場がなくなる、つまり自分たちの商売が成り立たなくなるとして、子育てや育休取得を応援する姿勢を明確にしました。

こうして風土が変わり始めたころ、和田さん自身も1回目の育休を取得。最初の1週間は16時に退社できるよう勤務時間を前倒しにし、その後に育休を2週間、週4日在宅勤務を1カ月間という形でとったそうです。2回目は育休を2週間とった後、コロナ禍ということもありフルで在宅勤務に。

上層部からは「働く場所が変わるなら給与も変更しないといけないのでは」という声も出たそうですが、チームメンバーは「和田さんが休んでも困らないので安心して休んでください」と、冗談を交えながら快く送り出してくれたといいます。

「2度の育休で感じたのは、いなきゃいないで意外と他のメンバーでカバーできるということ。いない前提で業務が再構成されたり、思わぬメンバーが活躍したりするほか、誰かが職場を長期離れることについてチーム内にノウハウが蓄積されるという利点も実感しました」

和田さんは「人事担当者は男性の育休取得者を支えてあげてほしい」と語ります。マーケティングで使われるキャズム理論に男性育休に当てはめると、「前例はないが自分はこういう形で取りたい」と声を上げる人たちはイノベーターに当たるといいます。

人事担当者が支えるべきなのは、このイノベーターたち。彼らの希望をかなえるには周囲の説得も必要になりますが、その際は「トライアル」という言葉が魔法のキーワードとして力を発揮するそうです。

和田さんは「上層部などに反対されたら『トライアルとして試験的にやってみましょう』と説得するのがおすすめです」と語り、最後に男性育休取得を推進するためのポイントを次のようにまとめました。

実践していくうえでのポイント
●目的を共有する
●上からやる
●全員やる
●「よかったことリスト」を作る
●「できなかったことリスト」を作る

「『よかったことリスト』は社内にポジティブな空気をつくっていくのが目的で、実際に男性育休をとった人の声などを入れるといいでしょう。『できなかったことリスト』は改善点の洗い出しや制度変更の検討などに必要なもの。この2つのリストはすべてのチームに作ってほしいですね。そして、社内でぜひ共有していただきたいと思います」