疑問形かどうかで意味は大きく変わってくる
たしかに、帰ってもいいかどうかに対する返答でなく、東京で一時的にマスクやティッシュが品薄になっているという報道が話題になっていて、その流れでそっちにはマスクとティッシュが足りているのかと聞かれているとしたら、単なる日常会話でしょう。
しかし、「京都人が言った」ということ、そして問いかけの言葉に「実家に帰りたいなぁ」という意思を見せているのにこう言われたということならば、ここは、なるほど、と察して納得しなければならないのが、京都式なのだそうです。この会話をよく見てみると、実家に帰っていいかを聞いているのに、東京はどう? と何となく噛み合わない問いかけが返ってきています。この違和感が重要で、それを感じたらもうこれは別の意図があると察しなければならないわけですね。
また、「差し上げます」と申し出たときに、「こんなええもん、もろてもよろしの?」と返されたなら、これも気をつけなければならないのだとか。本当は、あまりほしくない、もらってうれしくないものを差し出されている、という意味を含むかもしれないからです。質問で返してこられたら、とにかく、あれっと思わなければならない。
これが「こんないいものもらえませんよ~」とはっきりとした否定になるのであれば、逆に、あと二回は押して、相手がうんと言うまで、もらってくださいという意思を示し続ける必要がある可能性があります。
疑問形か、疑問形でないか。それが、重要なサインになっている場合が多いとのこと。分かりにくいかもしれませんね。でも、遠回しで少し考えないと真意がつかめない言い回しをあえて使うのが、戦略的あいまいさというものでしょう。
「実家に帰省して欲しい」と言われたらどう返すか
ほかにもこんな例があります。今度は、たまには実家に帰省してきてほしい、という要請があったとしましょう。そんなとき「何かこっちから送って欲しいものある?」と答える。これは、「私はそんなことを言われても帰りませんが」という意思表示として受け止められる返し方なのだそうです。とても精妙ですよね。慣れていなければスルーしてしまいそうです。
これに対して実家側は「仕事、そんなに忙しいの?」という返答をすることがあり得るとのことで、やわらかな言葉の選び方の中に、ちらりと見え隠れするほんのりとした悪意がとてもエレガントですね。直接ストレートな表現で応酬するのではなく、やんわりとした疑問で、その人が隠している真意を少しだけつつくという、コミュニケーション巧者同士でなくてはできない洗練されたやり取りが、こうした言葉の端々に感じられ、たいへん勉強になります。
また、仕事のクオリティーがもうひとつだな、という人に遭遇してしまったとき。「このお仕事、長いんですか?」と聞くのは、盛大なイケズになり得るようです。