相続の手続きには半年から1年はかかる
介護と相続は切っても切れない関係にある。「世話になる子に自宅を譲る」と遺言でも書いておけば別だが、たいていは「家族仲がいいから大丈夫」と、何の手も打たない。
「『大した財産はないから』とおっしゃる方に『ご自宅はどうされますか』と伺うと、はっとされますね」と苦笑いするのは三菱UFJ信託銀行の灰谷健司氏である(図3)。
親の遺産は黙っていても法定相続どおりに分配されると思い込んでいる人が多いが、現実は違う。法律は権利を保障しているだけで、分配の仕方は相続人同士の話し合いで決めるものなのだ。法定相続の割合どおりに分配されるケースは非常にまれであることを知っておきたい。例えば自宅である。
「売って分ければ一番簡単ですが、自分たちが育った家を売るのはふんぎりがつかない。母親の名義にして、とか、子供である兄弟の共有名義にしてとなると、母親が亡くなってからの二次相続や子供の相続時に必ず問題になります」(灰谷氏)
また問題になりやすいのが、子供のひとりが親の土地に家を建て、同居するケース。家の名義は子で土地は親となると、相続のときに必ずもめる。
同居した子には「親の面倒を見たのだから土地は自分のもの」という思い込みがあるが、ほかの子供は「タダでもらうなんて虫がよすぎる」と、法定相続分の取り分を要求する。
「同居する前にほかの子供たちを納得させることです。遺言だけでは遺留分の権利が残る。生前にいくばくかの現金を渡して、遺留分の放棄をしてもらうことも可能です」(灰谷氏)
10年、20年後の1000万円よりも今の100万円がほしいという場合もあるからだ。
「『親父の貯金はもっとあったはず。兄貴が隠しているんじゃないか』と兄弟間で猜疑心を募らせるケースもある。一度もめると骨肉の争いだけに、収拾がつかなくなる。こういう相談は私どもでは打つ手がありません」
相続争いでもめた場合には、弁護士や家庭裁判所に相談するとよいだろう。