「噴火の兆候は認められない」と判定されていた御嶽山

ただし、噴火警戒レベルを参考にする際には、「火山の状況によっては、異常が観測されずに噴火する場合もあり、レベルの発表が必ずしも段階を追って順番どおりになるとは限らない」と、同サイトでは注意を促している。御嶽山の噴火が、まさにそうだった。

噴火前の御嶽山の噴火警戒レベルは1の「平常」(当時の区分)で、「火山活動に特段の変化はなく、静穏に経過しており、噴火の兆候は認められない」との判定だった。

それが同年9月27日の午前11時52分、突如として噴火した。

この噴火は、マグマで熱せられた地下水が沸騰して爆発する水蒸気噴火だった。水蒸気噴火はマグマ噴火と違って山体の変形や火山性微動がみられないことも多く、予知が難しいとされている。

実は噴火の2週間ほど前から、御嶽山の剣ヶ峰山頂付近では火山性地震が増加しており、気象庁はその情報を周辺自治体などに伝えていた。しかし、その後は小康状態になったことに加え、火山活動が活発化したことを示す火山性微動は観測されなかったため、噴火警戒レベルは引き上げられないままであった。

紅葉シーズンの山頂は大勢の登山者で賑わっていた

この日は好天の土曜日で、紅葉シーズンがはじまっていたこともあり、大勢の登山者が御嶽山を訪れていた。しかも、噴火した時刻はちょうどお昼どきで、山頂周辺などでランチをとっている登山者も多かった。

たまたまその瞬間に出くわしてしまい、辛くも九死に一生を得た人たちの証言は、あまりにも生々しく悲惨である。以下、新聞報道等からいくつか要約して紹介する。

八丁ダルミにいたときに、地鳴りとともに、なんの前触れもなくドン、ドンという鈍い音が鳴り響いた。100メートルほど先に白い煙が2つ、むくむくと噴き上がっていくのが見え、すぐに周辺が煙で闇に包まれると、こぶし大から畳ほどの大きさもある石が降ってきた。この場所にいてはまずいと思い、噴煙が押し寄せる側とは反対の斜面に逃れようとしたとき、今度は猛烈な熱風が襲ってきた。火山灰で鼻や口、耳が詰まり、熱さも加わって息ができず、死ぬかと思った。ザックを背負っていなかったら、熱でやられていた。全身は灰で真っ白で、足元には50センチメートルほどの灰が積もっていた。やっとの思いで登山道を下ったが、途中の尾根上には、家族連れや若い女性ら100人ほどの人がいた。「助けてくれ」という声も聞こえてきたが、まわりが見えずどうしようもなかった。助かったのは奇跡としか思えない。(63歳男性「中日新聞」)

煙の写真を撮っていたらあっという間に真っ暗に

突然、「パーン、パーン」と鉄砲を撃ったような乾いた音が響き渡った。山頂からもくもくと灰色の煙が上に向かって伸びたかと思うと、横に広がっていった。このときは、みんな写真を撮るなどのんびりしたものだったが、急に煙が向きを変え、自分たちのいる方向に雪崩のように迫ってきた。灰が降りかかるのと同時に、自分の手も見えないくらい真っ暗になり、500円玉ぐらいの大きさにくっついた噴石のかたまりが打ち付けるように降り始めた。バーン、バーンと音がして、雷が光っているのが暗闇でも見えた。ほんとうに地獄のようだった。20分ほど経ったときに少し明るくなり、「今しかチャンスはない」と思い、転落防止のためのロープにつかまりながらゆっくり下りはじめた。(38歳男性「MSN産経ニュース」)
大学時代からの仲間3人で王滝口を出発し、九合目付近に差しかかったとき、突然、目の前で噴煙が上がった。黒ずんだ煙に覆われ、その場にうずくまった。暗闇の中、「痛い、痛い」とうめくような声がして目をやると、仲間の女性の左膝から血が流れ続けていた。降ってきた噴石につぶされ、ちぎれかかっていた。119番し、アドバイスを受けながら止血のために足をタオルで縛ったり、爪先の位置を高くしようと体をずらしたりした。すぐ近くの山小屋に運ぼうとしたが、とても動かせる状態ではなかった。「お母さんと話したい」というので、携帯電話で女性の母に状況を説明した後、女性に代わった。噴火から3時間半がたったころ、少しずつ弱っていた心臓の鼓動が聞こえなくなった。「ごめんね」としか言えず、女性をその場において下山した。(35歳男性「東京新聞」)
友人2人と登った御嶽山で噴火に遭ったのは、27日正午頃、ちょうど山頂付近だった。噴火に驚き、神社の建物に駆け寄った。中に逃げ込もうとしたが出入り口が見当たらず、ひさしの下に頭と肩だけを入れた。背後から次々と人が駆け寄り、ひさしに入ろうとした。そこに上空から大小さまざまな石が落ちてきた。屋根に当たってはね、頭上にばらばら降り注いだ。そばにいた男性が窓をたたき割ったので、火山灰に埋もれていた足を懸命に抜き、中へ入った。結局、逃げ込めたのは十数人。わずかに遅れ、逃げ込めなかった人が倒れ、灰に埋もれるのを目の当たりにした。灰が降り続ける中、何とか倒れた人を中に引き入れようとしたが、灰に埋まりかけた若い女性3、4人は動かず、中に引きずりこんだ男性は「痛い、痛い」と苦しんだ。その声もやがて聞こえなくなり、動かなくなった。(73歳女性「読売新聞」)