今年3月1日、大阪市生野区で交通事故があり、2人が亡くなった。読売新聞などの報道によると、車を運転していた男性は、くしゃみで意識が遠のいたと話しているという。産業医の池井佑丞さんは「過去にもくしゃみが引き金となった可能性のある交通事故は起きており、いずれも花粉症シーズンの3月、4月だった。くしゃみで意識障害になったり、花粉症の薬が眠気を誘発したりすることがあるので、車の運転には注意が必要だ」という――。
車内で鼻をかむ女性
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「くしゃみ」が引き金で交通事故

今年3月、大阪市生野区で乗用車が逆走し、歩道に乗り上げて歩行者2人をはね、病院に突っ込んだ事故について、記憶に新しい方も多いでしょう。この事故では、86歳と75歳の女性2人が亡くなりました。乗用車を運転していた男性は「事故直前に、くしゃみをして意識が遠のいた」、「持病がある」と話していることが報道されました。

事故原因については現在も捜査中ですが、「くしゃみ」が起因とされる交通事故は過去にも発生しており、今回のように死亡事故となったケースもあります。

2005年3月、岩手県遠野市では、路線バスが対向車線側の歩道に乗り上げ、下校中だった小学生2人をはねる事故が起きました。1人は全身打撲で亡くなり、もう1人は軽傷を負いました。報道によると、バスの運転手は、「大きなくしゃみをしたら、貧血のような状態になった。頭がクラクラして、気がついたら反対側に突っ込んでいた」と話していたといいます。

2017年4月には愛媛県今治市で、男性の運転する乗用車が対向車線にはみ出し、軽乗用車と正面衝突する事故が起きました。この事故では軽乗用車の男女3人が死傷しています。事故を起こした男性は、報道によると「花粉症の薬を服用していたが、運転中に目のかゆみや連続するくしゃみなどが起きて症状が激化し、前方不注意で対向車線にはみ出した」と話していたそうです。

このように、くしゃみそのものや、くしゃみによる意識障害が死亡事故につながった可能性のある事例はたびたび報道されています。報道では、すべてに花粉症への関連性について言及されているわけではありませんが、ここで挙げた事故については、いずれも3月や4月という花粉症シーズンに起こっています。

くしゃみで意識を失うことはある

想像しづらいかもしれませんが、くしゃみで意識を失うことはありえます。

まず、「迷走神経反射」と呼ばれる症状が考えられます。これは、くしゃみのほかに排便や、注射針を刺されることで起こることがあります。交感神経と副交感神経のうち、副交感神経に含まれる迷走神経が急な刺激を受け、血管が開いて血圧が下がり、本来脳に行くべき血液が行かなくなることで一時的な意識障害を起こすと考えられています。