日本は「飲酒に対する教育」が行き届いていない

――アルコールへの容易なアクセスや有名人を起用したコマーシャルなど、飲酒に寛容な文化や社会構造をめぐっては、日本政府と大手酒類メーカーのどちらの責任が大きいと思いますか。

究極の責任は政府にあると思う。ひとたび大手酒類メーカーに自主規制を求めると、厄介なことになる。どこまでが道徳的・道義的に妥当なのか、その線引きがはっきりしないからだ。

まず、政府は飲酒に関する教育を徹底すべきだ。アルコールを摂取すると、体がどうなるのか、安全な飲酒量とはどの程度なのかといった事柄を周知させることが重要だ。

新宿区の繁華街
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日本は健康を害するほど飲む若者の割合が高い

――あなたの分析(前編)によると、日本では、「夫は仕事、妻は家庭」という男女の役割分担の下で、「サラリーマン」を中心とする男性社会と飲酒文化という特別な構造が出来上がったといいます。男性は仕事が終わると街に繰り出し、一生懸命働いた自分への「ご褒美」として、また、仕事仲間との絆を深め、一丸となって、より大きな成果を上げるための「手段」として、大いに飲み明かしたと。

しかし、日本でも、コロナ禍を機にリモートワークが進み、職場の人と飲む機会も減っています。また、共働き家庭が増え、男性同士の頻繁な飲み会を可能にしてきた社会構造やインフラも変わりつつあります。こうした変化は、日本の飲酒文化にどのような影響を及ぼしていると思いますか。

確かに日本の一定の層や場所ではそうした変化が見られ、以前ほど飲酒に寛容でなくなったり、飲み会に熱心でなくなったりしている人たちもいる。一部では、特に仕事の一環として、飲み会を「義務」だと感じる雰囲気が薄れていると言えるかもしれない。

だが、2022年7月16日、英主要医学誌『ランセット』に掲載された、飲酒リスクに関する研究結果によると、世界204カ国・地域のアルコール摂取量と健康リスクを調べたところ、日本の若者はグローバルな比較において、飲酒量が有害なレベルに達する人たちの割合が高かった。

日本の国税庁が若者のアルコール離れを憂い、若者に日本産のアルコールをもっと飲んでもらうために、「サケビバ!」コンテストを実施するという報道を目にしたのは、その約1カ月後だ。

注:『ランセット』掲載の研究結果は、「GBD 2020 Alcohol Collaborators(GBD 2020アルコール・コラボレーターズ)」が発表。GBDは、米ワシントン大学「保健指標・保健評価研究所(IHME)」が、162カ国・地域の9000人を超えるコラボレーターズ(共同研究者ら)と手がける「世界の疾病負荷研究」のこと。『ランセット』誌発表の研究はGBDのデータを基に解析。