平成時代の新宗教は天皇をどう位置付けていたのか。宗教学者の島田裕巳さんは「高度経済成長時代に大きく発展した新宗教においては、天皇という存在はことさら意識されず、信仰対象となる神仏と天皇との関係についても特に言及されることはなくなっていた」という――。

※本稿は、島田裕巳『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

オウムや幸福の科学が登場した平成時代

1989年1月8日、昭和天皇の崩御によって、新しい天皇が即位し、平成の時代がはじまった。ベルリンの壁が崩壊したのは、この年の11月9日のことだった。これはやがてソ連邦を中心とした共産主義圏の解体に結びつき、長く続いた冷戦に終止符が打たれた。

国内的にも、この年の大納会で株価は3万8915円87銭という終値の最高値をつけるが、年が明けると暴落し、株価とともに上昇を続けてきた地価も下落する。これによってバブルが崩壊したとされた。

平成という新たな時代は、国内外における激動からはじまった。

宗教にかんしては、1980年代中頃からのバブルの時代においてブームとなり、オウム真理教や幸福の科学といったこれまでとはタイプの異なる新宗教が登場した。オウム真理教は、95年に地下鉄サリン事件を起こし、世界に衝撃を与えるが、実は、既成の神道や仏教の信者数は地下鉄サリン事件が起こる前の90年代前半がピークで、それ以降、急速に信者を減らしていく。一般の新宗教も同様で、新しく信者が増えていく状態ではなくなり、高度経済成長の時代に入信した信者の高齢化も進んだ。

平成
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戦争とは無縁の平成の天皇

平成時代の天皇のあり方は昭和時代とは大きく異なった。

もっとも大きな違いは、昭和天皇が戦争との結びつきが強かったのに対して、平成時代の天皇にはそれがなかった点である。昭和天皇は、大日本帝国憲法によって神聖化された天皇としての時代を経験している。また、戦争責任を問われる立場にもあった。

それに対して、平成時代の天皇は、最初から日本国憲法のもとにあり、戦争とは無縁だった。天皇自身も、皇后とともに慰霊の旅を続け、平和の重要性を強調することを試みた。