ウクライナがロシアに勝利すれば、私たちが知る「ロシア連邦」は崩壊することになるかもしれない――あるエコノミストはこう指摘した。
イギリスのシンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」の客員研究員であるティモシー・アッシュは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とロシア軍がウクライナに敗れるのは避けられないと考えている。ロシアによる軍事侵攻が始まってから11カ月目を迎える今、ロシア政府にのしかかる真の問題は、プーチンのロシアがどうなるのか、そして歴史は繰り返すのか、ということだと彼は言う。
ウクライナとロシアの問題をめぐる政策について、複数の政府に助言を行ってきたアッシュは、1月21日付のウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」に論説を寄稿。その中で、戦争に敗北すればロシアは複数の国家に分裂することになるだろうという考えを示した。これはプーチンが約1年前にウクライナに軍事侵攻を開始した時に目指した「大ロシア」再生とは真逆の結末だ。
「プーチン時代の終わりを目の当たりにすることになる可能性は十分にあるし、1991年のソ連崩壊の時のように、ロシア連邦が崩壊して数多くの新国家に分裂する可能性もあると思う」とアッシュは論説の中で述べた。
領土拡大の野心が裏目に
現在のロシア連邦は89の構成主体――21の共和国、6つの地方、2つの連邦直轄都市(モスクワとサンクトペテルブルグ)、49の州、1つの自治州と10の自治管区――によって構成されている。これを基に考えると、ロシア連邦が崩壊した場合、20の国家が誕生する可能性があるとアッシュは予測する。
「プーチンはロシアの領土拡大を狙ってこの戦争を始めたが、それによってかえってロシアが縮小することになるかもしれない」
1991年のソビエト連邦崩壊で、主権国家としてのソ連はその存在を終えた。それがウクライナに独立をもたらし、そこからロシアとの対立の歴史が始まった。
ロシア崩壊の可能性を予想する専門家は、アッシュだけではない。
米ラトガーズ大学ニューアーク校の政治学教授で、ウクライナとロシアの問題に詳しいアレクサンダー・モティルは、1月7日のフォーリン・ポリシー誌の論説の中で、プーチンが権力の座を去った後には「熾烈な権力闘争」が起き、「中央集権制が崩壊し、ロシア連邦が分裂する」可能性が高いと指摘した。