■男性の100人に1人は無精子症
カップルにとって「子供ができない」という問題は想像以上に切実で深刻である。一旦、不妊治療を始めると途中でやめることはなかなかできない。そして、夫が無精子症だとわかった場合、AIDをすすめられることが多い。だからといって、安易にAIDという方法に頼ってもいいものなのだろうか。実際にAIDを行って妊娠し、子供が12歳のときに告知に踏み切ったある母親は、私にこう語った。
「夫が無精子症であることがわかったときに、AIDという方法を医師に教えられました。AIDを使おうと言い出したのは夫のほうです。それに踏み切るまで数年かかっています。私には抵抗がありました」。男性の無精子症は100人に1人という高い割合でみられる。しかし、この問題について、男性が悩みを吐露できる場所は非常に少ない。
生殖医療(不妊治療)が専門の生殖心理カウンセラーは、男性不妊についてこう語る。「夫が無精子症とわかり離婚したカップルもいました。また、無精子症と判明した夫が、その後、うつ病を発症し、自殺したケースもあります」生殖医療専門のカウンセリングルームを持つ施設の担当者は、不妊検査についてこう語る。
「精液検査の結果が芳しくないとわかったとき、夫はもちろんのこと、妻も複雑な心境に陥ります。夫婦関係が大きく揺らぎ、夫婦間に大きな亀裂が生じることもある。検査を受けるということはどういうことなのかを、夫婦でしっかり理解してから受けてほしい」。不妊と診断された男性は、カウンセラーの前でもほとんど口をきかないという。無精子症がこれほどまでに深刻な悩みで、しかも100人に1人という確率で起きることを考えると、もっと男性が不妊問題に関心を持つべきだと思うのは私だけであろうか。
■親が感じる負い目。隠すことが苦しく、一時うつ状態に
加藤は医学部を卒業後、内科医になった。「自分と遺伝的につながっている父親は間違いなく慶應大学の医学部を出ているから、今も医師をしていると思う。そういうこともどこかで自分の進路に影響したかもしれない。今は医師としてその提供者と会い、いろいろ話したいと思う」