地上波のビジネスモデルと真正面から衝突する

ところが、Netflixがこれらの民放から提供されたコンテンツに広告をつけて割安で会員に閲覧させますという話になると、この地上波のビジネスモデルと真正面から衝突する競合になるばかりか、そもそも元となっている番組やコンテンツのスポンサーと異なる広告がNetflixで勝手にくっつけられてしまうと大惨事になります。言うなれば、民放の番組では大手自動車会社のスポンサーで制作され放送されたコンテンツが、Netflixでは別の自動車会社の広告がついて売られた場合、元のスポンサーの立場はまったくなくなります。

さらに、コンテンツの制作にあたっては、芸能人や監督、楽曲、脚本家も含めた各関係者の利用許諾を配信先ごとにきちんと取る必要があります。日本のテレビ局が昔のドラマなどの作品をなかなかデジタル放送に転用できなかったのも、出演者を中心としたデジタル版の配信に対する利用許諾を取るのに手間取ったことが背景にあります。

広告付き動画配信をやりますよ、AVODですよと一口に言っても、例えば大手携帯キャリアの宣伝に出ている女優やお笑い芸人が出ている番組に、Netflixがうっかり別の携帯キャリアの広告を付けたら大事故になります。

単体権利で言えば、スポンサーの広告は配信されていないのでスポット広告で同業他社の広告が流れても表面上は問題ありませんが、有力な出演タレントは企業と専属契約を結んでいることがほとんどですので、コンテンツ面で権利処理が不要と判断される場合でも、タレントサイドの確認と調整は必要です。常識的には、これらの同業他社の広告が流れてしまうカニバリが起きないようにNGリストを作り、どの出演者、どのコンテンツの権利が確保され、どういうコンフリクトが起きないようにするか手配しなければならないのです。

NHKの子ども向け番組にも広告がついてしまう?

これらキャスティングに伴う権利処理やNGべからず集を取り仕切ることを、コンテンツ業界では「行政」と呼びます。

同じことは、アメリカだけでなく台湾、香港など各国でも発生します。いままでは、Netflixが自社コンテンツを自社と契約している有料会員にだけ閲覧させるというから行政が発生することなく、出演のブッキングと複数タレントのキャスティングに専念できるという簡易な権利処理で許されてきた事業だったはずが、突然「会員数が厳しくなってきたんで広告つけて配信するのを半年以上前倒しにしますわ」と言われても、本来であればそれらの権利処理はコンテンツの配信事業者であるNetflixがやらねばならないことであり、ところがそれをNetflixがやるそぶりを見せないまま広告つき配信を強行しようとしているので、特に日本を含む各国の放送業界は超困ることになるのです。

より悪いことに、Netflixにコンテンツを提供している組織に、皆さまのNHKも含まれています。話題のドラマや、私の娘が大好きな「いないいないばあっ!」などの子ども向け番組もNetflixで視聴できるわけなんですが、執筆時点(11月2日20時)で確認している限りでは、どうも広告がついてしまうようです。

東京・渋谷にあるNHK放送センター
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです

NHKのことなので、用意周到に放送法を盾にあれこれ言っているようですが、Netflixが言うにはSVOD契約の対象者にNHKも含まれているとのことで、まさに危機一髪であります。俺たちのNHKの番組に30秒尺のコマーシャルがつけて売られてしまう日が、まさか外資系の雑な感じの業務展開によって生まれてしまうことになるのでしょうか。