当事者意識を醸成する「ダイバーシティウィーク」

【木下】宮間さんは、次世代経営者を育成する社内プログラムで唯一の女性候補になった経験をお持ちです。どんなことを学んだとお考えですか?

【宮間】このプログラムは、次の経営を担う人材として全社視点を持ち、変革をリードしていく経営リーダーを育成するものでした。目的は経営リテラシーの獲得と、リーダーシップへの覚醒および実践へのコミットメントで、特に後者は私にとって大きな収穫になりました。

自分を知り、どう変革していくかを言語化するプロセスは、苦しくも有意義なものでした。受講して以降、私は従来の自分にとらわれず、やるべきことをとことんやり抜くようになれたと思っています。「女性初の」という言葉がつく役割や社内初の取り組みに対しても、フロントランナーとして期待に応えるんだという覚悟ができました。

【木下】近年は「ダイバーシティウィーク」というオンラインイベントを開催されているそうですね。

【宮間】社員一人ひとりがDNPのダイバーシティの一員であるという当事者意識の醸成や、対話が促進される組織づくりを目的に、2020年度から開催しています。第1回は「違いを楽しむ1週間」として当事者意識を、第2回は「違いをチカラにする2週間」として包摂(インクルージョン)をテーマに取り上げました。

いずれの回でも、社長が自らD&Iの考え方を伝え、各部門のD&I推進委員長がD&Iに関する思いや行動を語る時間を設けました。そのほかにも基調講演やインクルージョンしている上司の紹介、ちょっとした時間に参加できる5分間のプログラムなど20種類以上を展開し、社員がD&Iを能動的に実践できるよう後押しを行いました。

事後のアンケートでは、90%以上の社員が意識の変化や気づきがあったと回答しています。D&Iは女性やマイノリティーだけではなく、全員が当事者として取り組む活動なのだということを浸透させるよい機会になったと思っています。

【木下】今年から法制化された男性育休についてはいかがでしょうか。

【宮間】2020年に社長が「男性育休100%宣言」を発出したことで、グループ全体に浸透しました。D&I推進室では専用の社内サイトもつくり、実際に育休を取得した男性社員の体験談を公開するなど、これから取得する社員や上司・同僚の理解を後押しする取り組みを実施しています。

その結果、2020年度には50%台だった取得実績が、2021年度には82.4%とグッと上がりました。残る課題は取得日数です。現在は5日間の取得が一番多く、今後はもっと増えるように取り組んでいきたいと考えています。

プレジデント ウーマン編集長 木下 明子(左)と、大日本印刷 取締役 宮間 三奈(右)
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

上司やトップには「事実」を示して説得

【木下】D&Iを進めるにあたって、男性上司やトップの理解が得られないという人事担当者にアドバイスをお願いします。

【宮間】人は、自分が知らないことや理解できていないことには積極的に賛同しにくいものです。どんな結果になるかわからないわけですから。この壁を越えるには、担当者の方はリアルな形で説明する、例えばデータで語るといったことが大事になると思います。

ぜひ問題や課題をリアルな形で示して、「だからこういうことをしましょう」と説得してください。上司やトップも事実から目を背けるわけにはいきませんから、きっと行動に移してくれると思いますよ。

また社内に対しては、私はD&Iの意義や優良事例などを繰り返し発信してきました。人事担当者が「以前伝えたし、サイトにも載せているから、皆理解してくれているだろう」と思っていても、受け手のほうは日々の業務に紛れて忘れてしまいがち。こうした受け手の立場に立って、地道に繰り返し伝えることで、会社全体が変わっていくと実感しています。

【木下】これから進めたいD&I関連プロジェクトはありますか?

【宮間】たくさんありますが、仕事と介護の両立支援や、技術系におけるジェンダーギャップの解消などが挙げられます。技術系の女性はそもそも人数が少ないため、採用比率も5割に届きません。これは「女性は数学や理工系が不得意」といった思い込みが、いまだに教育現場などに存在しているからではないでしょうか。今後は理工系出身の一先輩として、理工系の魅力を中高生にも発信していきたいと思っています。

加えて、皆が意見を出し合って成長していける会社になるよう、心理的安全性のある組織風土づくにも取り組みたいですね。

【木下】最後に、ダイバーシティ推進に悩んでいる人事関係者の方に励ましのメッセージをお願いします。

【宮間】グローバル社会の中で日本が埋没してしまわないためにも、D&Iは必要不可欠です。「つらいな」「やめたいな」と思うこともあるでしょうが、次の世代によりよい社会や企業を残していくために、ぜひ粘り強く取り組み続けてください。必ず変化は訪れます。

構成=辻村洋子

宮間 三奈子(みやま・みなこ)
大日本印刷 取締役 人財開発部、D&I推進室担当

1986年、大日本印刷に女性総合職一期生として入社。企画開発部門部長、技術開発部門部長、人材開発部部長などを経て、2018年に執行役員 人財開発部長・ダイバーシティ推進室長に就任。2021年より現職。J-Winダイバーシティ・アワード個人賞、女性技術者育成功労賞受賞。

木下 明子(きのした・あきこ)
プレジデント ウーマン編集長