発展の鍵は「クラウド」
国境の壁をどう越えるか

06年、グーグルのエリック・シュミット会長兼CEOが「クラウド・コンピューティング」という概念を明らかにした。これはネットを「雲(クラウド)」に見立て、ネットで接続されたサーバー群が、蛇口をひねれば水が出るように、サービスやソフトを提供するという考え方。ASPやSaaSと似た概念を、利用者の視点で表現したものだ。

「今後、ネット発展の鍵はクラウドだろう。ネットが空気と変わらなくなったように、コンピューティングを意識せずに使えれば、より多くの人がITを活用できる」(砂原氏)

クラウド型サービスを提供する米セールスフォース・ドットコムは2009年、わずか3週間でエコポイントの情報システムを作り上げて話題となった。10年上半期にはマイクロソフトが「オフィスウェブアップス」の提供を始める。馴染みあるワードやエクセルまでもがクラウドの向こう側に移行しつつある。では今後、ネットの世界で製品やサービスの成否を左右するポイントは何か。

「一つのネックは制度面。データを社外、さらには国外で保管することへの抵抗感は根強い」(城田氏)

ハードの性能や通信速度といった制約が小さくなり、使いやすさの面でもさらに進歩したネットの世界では、人々がネットを通じて一つに繋がりつつあるかに見える。しかし一方で、組織や国境の壁は厳然として存在する。これまであまり意識されなかった「国境の壁」の大きさを感じさせたのが、3月の中国におけるグーグルの検索事業撤退だった。日本でも、iPhoneをめぐっては電波の割り当て制度やSIMロックといった規制が、また電子書籍端末・キンドルをめぐっては著作権制度のあり方が問題となっている。

「15年ごろまでには制度面でも成熟期を迎え、ITをめぐる風景はクラウドを軸に様変わりしているはず」(城田氏)

仮にそうであるとすると、今後、日本の「ガラパゴス化」を進めてきた制度の壁は低くなり、ユーザーにとっては仕事の道具としてのネットサービス・製品の選択肢はさらに広がることが期待される。一方、日本のネット関連企業は厳しい国際競争にさらされることになる。