意外に多い自分の話に酔う人

自分の知っていることを話すときも、「押しつけになってはいけない」と鈴木敏文氏はいう。

鈴木敏文●セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO。1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設して日本一の小売業に育てる。2005年セブン&アイ・ホールディングスを設立する。

「こんな経験をしたことはないでしょうか。相手に何かを聞いて、答えがふたことみことで返ってくると予想していたのに、そこからえんえんと話を始められる。聞くほうは疲れてしまいます。誰しも、人の話を聞くとき、自分の思っていた時間より長く聞かされるのは嫌なものです。ところが、話す本人はそれにぜんぜん気づきません。なぜなら、自分で自分の話に酔ってしまうからです」

例えば、遠隔地への行き方がわからず、ある人に聞いたとする。

電車か、飛行機か、クルマか、それぞれにかかる時間と費用ぐらいを知りたいと思っているとき、相手がここぞとばかりに説明を始める。

「電車で行く場合は新幹線でどこそこまで行き、そこから先は私鉄が便利だとか、飛行機はこっちのエアラインのほうがいいとか、クルマだったらどの高速道路を使い、どこのインターで降りて迂回したほうが込んでいないとか、話し続ける。

本人は“相手のために”なると親切心のつもりで話しているのでしょうが、それは勝手な思い込みで、結局、物知りであることを売り込んでいるにすぎないのです。

しかも、本人は親切な自分に酔っているから、なかなか終わらない。

相手から何かを聞かれたら、最初は必要最小限のことを答え、より詳しいことを聞かれたら、そこで自分の知っている知識を話せば、聞き手は“この人は物知りで親切だ”と思うでしょう。

これが“相手の立場で”考える、心理に沿った話し方です」