子供のために使おうと、コツコツ貯め続けていたお金

手持ちの現金はなかったが、遠出ということもあり「念のため」に、夫との共有口座のカードを持ってきていた。この「共有口座」はいちごさんの会社を共同名義としながら、自身は大手商社の会社員として安定した収入のある夫が、自分といちごチェリーさんの老後のために結婚後から、2人でコツコツと貯め続けていたお金だ。また、もし子供を授かったら、養子をとったら、子供の学費のために使おう、と約束していたそれは、絶対に手をつけてはいけないお金だった。

「お金がないから、もうそこから出すしかない。『現金を下ろしてくる』というと、そのとき、卓についていたホストが、ATMまで、ピッタリついてきて、お金を下ろすまで離れなかった」

その光景には見覚えがある。私が歌舞伎町に住むようになってすぐ、歌舞伎町二丁目のミニストップに夕飯を買いに行くと、ATMでお金を下ろす女性のうしろに、ぴたっと男性が張り付き、出金する姿を見守っているのだ。

女性がお金を手にするところを見届けると、男性は出金を見守る時とは一転、満面の笑みとなり、女性の肩をだき、人目もはばからずにイチャイチャしながら、2人で大量のつまみを選んでいった。女性は、陶酔したような、恍惚としたような、嬉しそうな笑顔を浮かべているのだ。

「ホス狂い」は確定申告までの期間限定だった

この、江戸時代の吉原でいうところの「付け馬」(※遊郭や飲み屋などで、客が代金を払えない場合、その客に付き添ってその代金を取り立てにいくこと)的光景は、その後、何度も歌舞伎町のコンビニで目にすることとなった。

初対面のホストから受けた、まるで「借金の取り立て」のような扱いに彼女は、どれ程、傷ついたことだろうか。いちごチェリーさんは続ける。

「それからは、ああ、このお金がある、と、引き出しては歌舞伎町に費やす日々でした。最初はすぐに返すつもりで『まだ補てんできる』『まだいける』と思っていたのですが、もう、途中でどうでもよくなった。でも、2月には確定申告があるから、お金の動きは、夫にはバレる。私の『ホス狂い』はその時までの、期間限定のものだったんです」

そういうとひとつ、息を吸い込み「これが、私の歌舞伎町での1年間のすべてです」とほほ笑んだ。